第12話 彼女の美徳
会議は大きく分けて二つある。
一つは毎朝行われる宮廷会議で、これには王と三公九卿が出席する。財政や司法、それから廷内警備など各部門の長官である九人の国吏たちから事案が報告され、それらの解決策や今後の方針について議論し合うのだ。また地方における諸問題の対処もこちらで検討する。
そしてもう一つが、これから行われる四方会議である。四方会議では王と三公のみになり、主に国政や軍事、それから表には出せない内密の議題を取り扱う。四方会議で決議された内容は翌日の宮廷会議で九卿に共有され、異議の申し立てが多数あった場合は九卿を交えて再度議論される仕組みだ。
指定された時間が近づくと、白琳は翡翠を連れて一階に降り、会議の間に向かった。
本来なら三公以外の官吏や女官の立ち入りは厳禁なのだが、白琳の護衛の任に当たっている翡翠だけは特別に出席が許可されている。
会議の間に着くと、扉の前には二人の警備兵が常駐していた。
兵たちは白琳たちを視認するや否や、きびきびとした動作で拱手し扉を開ける。
「ありがとう」
清廉な笑みをもって感謝の言葉を送る白琳に、兵たちは「いえ……!」「とんでもございません!」と紅潮する。
そこで、翡翠の鋭い眼光が彼らを射抜いた。すぐさま麾下は背筋を伸ばし、緊迫した面持ちへと一変させる。
「引き続き、警備を怠らないように」
『はっ!』
白琳の背を追って傍を通り過ぎる翡翠に、兵たちは僅かに畏怖の念を浮かべながら扉を閉めた。
会議の間は奥行きがあり、中央には大きな円卓と東西南北の位置にそれぞれ四つの榻が配置されていた。なかでも空席になっている北側の榻は一際装飾が豪奢で、それが玉座であることは一目瞭然だった。
東、南、西の榻には既に三人の男性が着席しており、女王の御成に気づいた彼らは、こちらを振り返るや否や即座に腰を上げて揖礼した。
「皆さん、お待たせしてしまってごめんなさい」
「いえ。我々も先ほど来たばかりですのでお気になさらず」
玉座とは対極に位置する南席に座っていた梟俊が代表して答える。
煌びやかな銀細工が施された玉座を目にするたびに気が引けてしまうのだが、こればかりは慣れるしかないだろう。
白琳が淑やかに腰を下ろすと、翡翠は玉座から一歩下がったところで屹立した。梟俊たち三公も再度席につく。
「陛下も御着きになったので、少し早いですがこれより四方会議を始めます」
梟俊の宣言を皮切りに、広間の空気がぴんと張り詰めたのが分かった。
本来なら王に会議の主導権があるのだが、白琳はまだ自ら議題を提示し、それらの解決に導けるほど知識や経験が豊富ではない。それゆえ他でもない白琳自身が、梟俊に進行の代役を任せていた。
「今回の議題は、現在停戦している中央荒原での戦についてです」
戦——。
白琳はその議題に強く反応し、かの言葉を脳内で反芻する。
数時間前に梟俊から教わったばかりの、七百年以上繰り広げられている金桂国との大戦。だが、その戦は数年前から停戦状態になっていた。
歴代の銀桂君は六軍と呼ばれる禁軍の長――六師を務めている。六軍をどう動かすかという最終的な判断は全て六師の称号を併せ持つ王にあった。しかし、銀桀が急病で突如崩御したことにより、統率者を失った銀桂の六軍は一時混乱状態となった。
最初は白璙に六師代行を願い出るべきだと一部の官吏たちが申し立てた。しかし、王になるつもりが無い彼に六師を一時的にとはいえ継がせることは如何なものかという反対意見も飛び交った。ましてや、軍学とは何たるかを知らないうら若い次期女王にいきなり六師という大役を任せるわけにもいかない。
そこで、三公の一角にして軍事を司る太尉に白羽の矢が立った。




