第09話【本城綾香】
本格的に大盾使いとしての訓練を開始した本城であったが、この冒険者ギルドで本城相手に攻撃を通せるのは現役冒険者で敏捷性が高いコレットだけだ。ギルドマスターもレベルは42と高レベルだが、年齢のせいで現役の半分以下の力しか出せないといっていた。
そのレベルも50を越えると中々上がらなくなる為にレベル50を越えている冒険者は片手で数えられる程しかいないらしい。本城がどうしても倒したいコレットはレベル32と俺達よりも格上の相手である。
そして、ポンコツ魔法使いである高城もようやく魔法少女としてスキルを身に付けた。
『変身スキル』
魔法少女のように服が変わることで使える魔法が変わる高城のみが使えるオリジナルの魔法であった。こっちもサプライズを用意しないと行けないために九条と高城に相談していたことだ。
「綾香、ちょっと来てくれるか~?」
「…何だよ、梨沙?」
「もう冒険者ギルドで訓練してもコレットさんに勝てる訓練できんし、そろそろウチら依頼でも受けようとおもってなぁ?ハイ、皆からのプレゼントやで?」
「おまっ!?これここで一番高い大盾じゃねぇかよ!?」
九条と相談していたのは本城の大盾の購入についてであった。レイドリス王国から本城が支給されたのは鎧一式と両手剣のみで折角大盾使いとしての才覚が出てきたのに肝心の大盾がない。冒険者ギルドにポーションを品卸するようになりある程度懐に余裕は出来ていた。だが、大盾を購入するには金が足りなかった。
そこで高城と九条がギルドの飯処で何か食い物を作って販売できないかと相談を持ち掛けた。そして、ジャガイモを使ったフライドポテトとポテトチップスを試作品として冒険者ギルドに提供したのだ。
最初こそ注文されなかったが、酒のサービスで着けて食べて貰ってからは酒のつまみに合うと評判が上がり、作り方を教えて欲しいという者が続出し、その金が入ってきた為、大盾を購入する事が出来たのだ。
「結構頑張ったよね。フライドポテトとポテトチップス…」
「当分の間、ジャガイモの皮剥きはしたくねぇよ…」
「ウチもウエイターとして客にたくさん勧めて儲けたから大事に使ってや~?」
高城と九条は誰かのプレゼントの為にバイトをしたことがないが大盾を持って喜んでいる本城の笑顔を見て微笑んでいた。
本城は2人に抱き着いてお礼をいうと俺にもありがとうと言ってきた。
俺にとっては『必要経費』だと思っていたからだ。大盾で攻撃を防ぎ、そのまま投げ飛ばせる力は前衛として魅力的だ。
王国で支給された武具を売って足りない分を出すという事も考えたが後でどう文句を言われるかわかったもんじゃない。
そんな態度に腹をたてたのか、詰め寄ってきて頬をつねられた。
「お前が2人に持ち掛けた話なんだろ?素直にお礼ぐらい言わせろよ?」
「確かに言われてみれば自分の為にじゃなくて『誰かの』為に働いたのは始めてだな。自分以外の誰かに物を渡すという事がここ数年なかったから…」
「なら、買ってくれた分、キッチリ護ってやるよ!このパーティーの守護者としてな!後、ワタシと桃華も名前で呼ばせて貰うから丈も名前で呼べよ?」
「賛成ー!!私も高城より桃華って呼んで欲しいもん」
二人がそう言うので九条を見ると「エエで?」と頷いた。
早速プレゼントされた大盾で訓練を再開し始めた本城は玩具を与えられた子どものように無邪気だった。
◇◆◇
3日後冒険者パーティー登録をし、森の中に生息しているワイルドボアやゴブリン相手に本城は実戦の中で大盾の使い方を覚えていた。
コレットが王国に呼び出されていたが、定期的に俺達の状況を報告しているそうだ。
仮の勇者候補だが、俺達は『ハズレ』の分類だろうが、呼び出したのでそれなりの働きを期待しているのだろう。
訓練場では本城とコレットが模擬戦前の軽いストレッチをお互いにしている。
今日は全員でコレットVS本城の試合観戦だ。
「私的には綾香ちゃんの事もう冒険者として評価してるんだけどな? そんな敵対心むき出しにされると少しかなしいかな~」
「ワタシの家の方針で『格上でも1発いれるまで立ち向かえ』が家訓なんだよ。だがら、負けっぱなしで居られねぇんだ」
立会人はギルドマスターのドルダムが試合開始の合図を出すと同時にコレットが本城の背後に移動した。
(それを待ってた。コレットさんならそうすると思って練習相手をしてきたんだ。見せてやれ…)
「カウンターシールドッ!!!」
新たに獲得した『大盾』で覚えた技の一つに背後を取られた際に発動する事で大盾での防御ができるスキルだ。
実戦経験豊富なコレットは不味いと察知して、距離を取ろうとしたがもう遅い。
俺も何度も受けたから感覚でわかる。
「今だ!!一気に押し込め!!」
「シールドアタック!!!」
大盾をそのままぶち当ててコレットを吹き飛ばしてしまった。コレットは壁に激突したが上手く受け身を取ったようだ。
ドルダムが側によると「参った」と降参した。本城は格上相手に勝つ事を実感するとこちらに向かってピースサインをして満面の笑みを浮かべたのであった。
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