第07話【高城桃華】
「あー、桃華に長文を覚えさせるのは無理やで?」
「アタシも勉強苦手だから戦士でよかったぜ…」
高城と付き合いの長い二人に話をきくと、長文などを覚えるのは得意ではないと返答が返ってきた。 少なくとも冒険者ギルドから借りている本には基本の四属性の初級魔法しか記載されていない。
魔法が使えない魔法使いなど何の意味もない。勇者候補以前に冒険者としても致命的だ。色々と冒険者ギルドでこの世界を調べたがやはり娼婦といった職業は存在する。
避妊薬の製造法があるならもしやと思ったが、女冒険者はここで金を稼ぐ事もしているようだ。ただ一番最悪なのは『性奴隷制度』があるのだ。冒険で長期間の相手など絶対服従の首輪を掛けられて主には逆らえないようにする物である。
高城と本城は何とか冒険者として戦えるようにしないとかなり不味い。見た目はいいから性奴隷にしたいってクラスメイトは多そうなのは間違いない。
「情報集めたんやね?ウチも少し話をきいたら魔王領土付近の王国も色々とあるねんな」
魔王領土に近い国同士が協力し合い防壁を作り国境を超えて作って協定を結んでいる。その中央付近にできたのが中央都市『エルドラ』という場所である。
できてからは腕に自信のある冒険者はそこに滞在しているらしい。そこで依頼を失敗した女冒険者などは奴隷墜ちし、娼婦や性奴隷になる。その為に二人とも強くならないと不味いと伝える。
「わ、わかってるよ!脅さないでよ!草加くんの意地悪~!!!」
「つーか、何だかんだお前イイヤツなんだな?薬も調合してくれたし…」
本城にそう言われたが、個人的にソロでやれる事が少ない上に食っていく為にはパーティーで行動した方が稼げることがわかった。九条はともかく、高城と本城の問題さえクリアすれば4人でパーティーを組み色々と依頼が受けられるようになり依頼料も高い。九条と別れる前に見た時は簡易ベッドでグッタリとしていたが、九条に渡した薬は効果があったようで普段通りの様子であった。途中、青果店でリンゴを買ってきていた。
「リンゴ買ってきたらから切ってやろうか?」
「丈くん、リンゴ切れるんやね…」
「いや、リンゴくらい誰でも切れるだろ?」
「綾香ちゃんと梨沙は料理全然ダメだよ?貸して。私がやるね?」
高城は慣れた手付きでリンゴの皮を剥いていき、更に切ったリンゴを木の皿の上に並べた。本城とは道場仲間で空手をやっていたそうで差し入れとかも手作りだったと自慢げに話してきた。そうか、水泳と陸上以外にも空手経験があるのか。あのステータス値だと戦士でも全然いいと思うが魔法使いに選ばれた理由がある筈だ。
すると、高城はじっと与えられた魔法使いの帽子をみてため息をついた。
「ファンタジー系の魔法使いよりプリ◯アみたい魔法少女が良かったよなぁ。綾香ちゃんと2人で…」
「アタシかよ!? 梨沙でもいいだろ!?」
「んや、意外に合うんやない?空手仲間やし幼馴染みやん?似合うで?」
「……プリ◯ア? 魔法少女?何の事だ?」
首を傾げていると、プリ◯アについて熱く語られたが、日曜日はだいたい朝から夜までバイトをしていたので知らないが高城は『魔法使い』ではなく『魔法少女』になりたかったみたいだ。
ん?魔法使いじゃなくて魔法少女に?
魔法の本には長文祝詞詠唱とは他に魔法のイメージ力が必要だと乗っていた。
なら、それをイメージしてなりたい魔法少女になるという魔法を作ってしまえばいいんじゃ? いや、そんな上手く行く筈はないし、確証がない。
夢を見る前に現実に目を向けなれば意味がない。
現実は甘くないのを一番わかってる。けれども…
異世界でなら少しぐらい夢が現実になっても良いんじゃないか。
「可能性の話をするが、高城が魔法を使えないんじゃなくて魔法少女になりたいって気持ちが影響してるんじゃないかって話だ」
「んー、何ともいえんなぁ。魔法とは無縁な世界にいたワケやしなぁ~」
「その、あれだ。ここは異世界だ。『もしかしたら』があるかもしれない。『夢が現実』になるかも知れない」
「まあ、そうかもしれないけどいいのかよ?ンな非現実的で?」
「…俺は金を稼ぐ事しか知らないから夢がなんだったのかも覚えてない。けど、夢があるなら叶える為にできることはやっても良いんじゃないか?」
やりたいことして稼げる人間はほんの一握りだ。大体は現実を見て金を稼ぐ事しか考えなくなる。幼い頃に思い描いていた夢。そのために必死に努力しても叶わない。努力しても上には上がいてそれを努力すればするほど実感してしまい何時しか諦めてしまう。
少なくとも俺は金さえ稼げれば何でもよかった。バイトにやりがいなど感じない。ただ金のために必死になって時間を使って頭を下げて稼ぐ生活に何時しか疑問を持たなくなってきた。
異世界に来てもそれは変わらない。ただ稼ぎ方がある程度決まっており、危険な仕事にも関わらずわりに合わない依頼を受けるのが冒険者という仕事だろう。
なら、せめて職業くらい好きにしてもいいだろう。魔法少女に憧れているのであればなればいいと背中を押してやればいい。
「異世界だし魔法もあるんだから魔法少女になってもいいんだよね?」
「プリ◯アはわからんが、それに近い魔法をオリジナルでイメージして高城だけの魔法でも作ればいいんじゃねぇか?もしかしたらできるかも知れねぇだろ?」
高城は笑みを浮かべてどんな魔法少女になろうか本気で考え始めていた。可能性は低いかも知れないが少なくとも夢が叶えられそうなら叶える努力をして欲しい。そう心から願った。
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