第03話【優秀な猟犬と野良犬】
九条と地図を見ながらたどり着いた冒険者ギルドの扉を開けると、少し古めかしい酒場の様な感じで中は照明が足りてないのかすこし薄暗い感じの雰囲気を漂わせている。
出入りしてる冒険者も酔っ払いや街のゴロツキのようでお世辞にもいい場所ではない。取りあえずは受付で話をした方が早いだろう。
受付嬢さんに理由を話すと頭を下げて、奥に行ってしまった。暫く待っていると、大柄な筋肉質な爺さんがやってきた。
「お前らが異世界の勇者候補か。話はマルシュ王女様からきいてるぞ?オレはこの冒険者ギルドのギルドマスター・ドルダムだ。よろしくな」
どうにも既に王国から話が通っていたようで冒険者登録の手続きは滞りなく進んだが、本城は身分証でもある冒険者プレートに刻まれた『冒険者Fランク』というのが気に入らないらない様子だった。
「だって、草加は兎も角アタシらはDだったじゃんか!?」
「綾香ちゃん! それは勇者ランクの話であって、これは冒険者ギルドのランクだよ。それに草加くんはEランクだったよ?」
本城は高城に正論で宥められていた。コッソリと九条に話を聞くと本城はそこまで頭が良くない為に補習を良く受けており、高城も赤点ギリギリの成績だったとため息をついた。
九条は2人を宥めておくと言いその場を離れたので、その間に受付嬢さんに魔王討伐についての話を訊ねてみた。どうにも魔王がいるのは最北端の場所らしくここからはかなり離れているようだ。
魔王の影響で北側には強い魔物やダンジョンが誕生している為に腕に自信のある冒険者は中央都市【エルドラ】に集まっているという話だ。受付嬢さんにお礼を言い、依頼書を見せて貰って良いか了承を得ると巨大なボードに依頼書が無造作に貼り付けられている。
(見た感じだと初心者向けの依頼しかない感じか。やっぱり冒険者ギルドに送られたのは厄介払いって事だろうな。それに多分だが…)
右腕に取り付けられた宝玉の着いたブレスレットはおそらくは発信器の役割もあるのだろう。可能性は低くても魔物との戦闘で化ける可能性も考慮されている。あの王女様は自分に利益が入るように手廻しをしている辺りかなり狡猾な性格の持ち主なのだろうか。いや、周りの大人達の指示の可能性も捨てがたい。
ある程度の情報収集ができた為に九条と情報を共有しようと近づくとホットパンツを履いておへそを出した軽装でいかにも盗賊って感じの女の子の姿があった。銀髪で少しだけ小柄でお胸も少しだけ残念気味だが、まぁ、三姫は胸もデカいからな。
近づくと何やらまた本城がその子に食って掛かっているようだ。
「あ、草加くん!綾香ちゃん止めるの手伝ってよ!梨沙ちゃん全然手伝ってくれなくて…」
「ウチらの力じゃ綾香を押さえられんわ」
「…勇者候補が冒険者ギルドに送られた意味でも教えられたか?」
大方銀髪少女に冒険者ギルドに送られてきた時点で勇者として見込みがないと十中八九言われたのだろう。
どうやら図星だったらしく本城は女の子からターゲットを俺に変えて胸ぐらを掴んできるが、居酒屋でバイトしてた時にこう言った感じの輩の対処は慣れている。本城の手首を握り締めて最低Cランクの勇者候補はレベルアップする事でBランクと同等の戦力に成長する見込みがある判断なのだろう。おそらくはBランク以上の勇者に英才教育を受けさせるつもりだろう。
訓練された猟犬と訓練されない野良犬では差が出ても仕方ない話だ。すると、胸ぐらを掴んでいる本城が睨み付けてきた。
「じゃあ、何だよ?馬鹿にされたままでいろっていうのかよ?」
「いや?馬鹿にするも何もまだ冒険者として実績がないだろ?実績さえ上げればその子も文句はない筈だろう?」
「へぇ、君は冷静なんだね?もうちょっと矜持が高いと思ってたよ」
「まぁ、親父が死んで母親が遺産全部持って行って、稼ぐ知恵も力もなくて周りに助けられなきゃ餓死してたのでそんなものクソでしょ?それに冒険者なら強い魔物倒して初めて認められるような感じだろ?」
そんな矜持だけで飯が食えるか。稼ぐ知恵も力もなければ誰からも助けられずに餓死寸前まで放置されて無力のまま死ぬだけの話だ。異世界に来て稼ぎ方が依頼をこなして魔物を討伐する冒険者になっただけのことだ。金さえ稼げれば俺は問題ない。すると、胸ぐらを掴んでいた力が少しだけ緩んだようで本城を見るとなんともいえない顔をしていた。
「…お前、その話ってホントかよ…?」
「ホントだよ。たまたま親戚が気に掛けてくれて見つけてくれたから生きてこれた。もしも、あの時誰も来てくれなかったら死んでたよ。だから、バイト三昧で学校にあんまり通えてなかったんだ。金は生きる上で必要だし自分で稼がないとな」
「わ、悪いこと思い出させちまったな…」
「別に気にしてない。だが、お前ら3人はまだ別の手段あって冒険者以外の選択があるぞ?」
九条もそれは気が付いていた。簡単な話でありAランクの男子に養って貰えば良い。少なくとも3年間告白された彼女らがその気になればクラスメイトの一人や二人を落とすのは簡単な事だろう。闇雲に危険な冒険者をやるよりも立場的に良い連中の相手をして上手く懐に入り込めば当面の生活は保証される筈だ
まぁ、決めるのは本人達だ。ただ選択肢が1つ増えると思ってくれれば良い。
「俺の場合はクラスメイトと面識ないから冒険者しか選択肢は無いからな。早めに依頼を受けて金を稼ぎたいんだ…」
「いや、当面の生活はギルドが出すぞ?」
「そういう手筈になっとるみたいやけど、冒険者ギルドで訓練受けてからのが良くないか?」
「そういう問題じゃねぇんだよ。俺だけ『鎌』しか貰えなかったから防具買う金が必要だから稼がないといけねぇんだよ」
九条達は「あっ…」といい、武器も防具も貰えた自分達よりも装備が制服で貧相で身を守る為の防具を購入する為にも依頼を受けなければないと察した。本城と高城もわかったようで視線を合わせようとしない。
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