最終選考 5
「え……」
シュナは一瞬目を見張った。スズネが『爆裂』と声を放った瞬間、手が支えきれなかったのか、ぐるりと45°回転して、真っ直ぐジークさんの方に矢先が向いた。
そして、矢が放たれた。
直ぐにドライが的の蔦をその一直線上に出したのだが、あろうことか誰も突き刺さらなかった蔦を貫通させ、勢いそのままジークさんの元に飛んでいったのだ。
Sランクの魔物であるドライの蔦が貫通した矢が当たると流石のジークさんもただの怪我では済まないはずだ。
ジークさんは直ぐに腰に巻いてある剣でも抜くのかと思ったがそんな素振りは一切見せなかった。そして、ただ、ジークさんは首を傾けるだけで綺麗に矢を躱した。ギリギリのようにも見えるがきちんと計算し尽くされて、避けたのだ。
しかも、普通キレも仕方がない場面であるにも関わらず、何もなかったかのように平然としていて、あまつさえその矢主まで採用した。
確かに威力は断トツに高く、この先化けそうなのだが…普通殺されそうになって採用するだろうか?私だったらそんなこと出来ない。
普段ポケーとしていて強そうでもなんでもないのに、いざというときには発揮して、しかも寛大な心を持っている。やっぱりジークさんは凄い人だと再認識した。
「んじゃ次は魔術師か」
「………はい」
魔術師か…サッパリわからん。どんなのがいいんだ?やっぱりアンみたいに派手なやつが良いのか?
「ん〜まぁ取り敢えずさっさと終わらせよ」
魔術師の試験が始まったが結局誰が良いのか全くわからなかった。だから、適当に選んでおいた。もちろんリルの反応をチラリと見て決めておいた。
同様にタンク、盗賊、補助魔道士も決めた(ジンは紙に書いてもらい、ルナは縛っておいた)。
「ふぅ~、後は回復士か」
回復士ねぇ〜、手っ取り早いのはイシスに決めてもらうのだけどなぁ〜。あれだからな…
先程の光景を思い出して、その件は却下した。
俺は回復士の試練場所に向かった。外ではできるが一応施設の中でやっておこう。
回復士の試練会場には五人の女の子がいた。かなり顔面偏差値が高い。
「よし、取り敢えず面談しよう」
俺はキリッとした眼で言ったが、シュナがめっちゃ抓ってきて小声で「私もいますからね」と脅してきたので大それたことはできない。ちょっと惜しい…いや、ちょっとどころかかなり惜しい。
「んじゃ、フェニちょっと来〜い」
呼ばれたフェニは優美に飛んでやってきた。そして俺の肩に乗る。
フェニやリル達程の強さになると自由に体の大きさを変えることができる。今は肩に乗れるくらい小さいが、本来の姿だと4m以上ある。正直小さくても熱いので肩には乗らないでほしい。
「この五人を診てくれ」
フェニは頷くと肩から飛び降り、体が光った。
眩い光から出てきたのは背の低い女の子だった。燃えるような赤い髪、透き通った水色の瞳を持つ彼女はフェニの人化した姿だ。
フェニは一人一人の前に行って、手を握る。何をしてるのかはサッパリなのだが、取り敢えず能力を測っているらしい。
「……ん、これ」
全員測り終えると、ぶっきらぼうに指を指した。
「じゃあ、君採用」
俺はフェニの頭を撫でた。フェニは嬉しそうにニッコリとする。
「え、え?」
選ばれた人を含め、全員が戸惑いの表情を見せる。それはそうだろう。手を触られただけで合否が決まったのだから。
「……あ、事務員にでもなりたかったら…」
「「それは結構です」」
あ…そう?本当にここの事務ってブラックなんだな…。もう、ここまでくると三人の事務員の方が気になるな…
でも、まぁこれにて試練終了!!