最終選考 4
あぁ、こんなにも歓声を浴びると気持ちいいと思ったのだが、ここまで多すぎると逆に緊張して、気持ち悪い。35人しかいないと思っていたら、今朝と全く同じ人数でびっくりした。関係ない奴らは帰れよ!
あ〜早く、止まないかな。この歓声。
俺はずっとオロオロしているのだが一向に歓声は止まない。もう少しシュナと打ち合わせしとけば良かった…そう後悔する。
ここで、見かねたリルが遠吠えをする。
そこでようやく場が静まり返った。ここで、打ち合わせ通りに言葉を!
「………期待している」
俺は低い声で言い放った。
辺りはずっと鎮まっている。
デジャブだ…
俺は御面の下で涙が溢れそうになる。
「おぉーっ!!俺はやるぞぉ!」
「俺が大物ルーキーだぁ!」
一気に場が沸いた。
あ…うん、良かった良かったぁ。
やっぱり打ち合わせは大切だな。シュナに感謝。
俺はマントを翻して、舞台袖に去った。
「じゃあジークさん、会場に行きますよ」
「もう、いいよ俺は。満足したし」
「ダメです」
俺はそれでも気分が良かったので、シュナに軽い足取りでついていった。
「じゃあ、試練はどうしますか?」
「ん〜、剣士はティガ、弓使いはドライ、回復士と補助魔道士はフェニ、魔術師はリル。んで、タンクと盗賊は……」
というかずっと思ってるんだけど、タンクって何?役職名としてあるけど要は前衛職、つまり剣士とそう大差ない。盾とか使うのかね?
うちのジンは盾持ってないし。というかいつもアレンが直ぐに斬るし、タンクというよりは何もしてな…良くないな。俺のほうが何にもしてなかったし。
「まぁ、タンクと盗賊はそれぞれジンとルナ。それでシュナはずっと俺と採点な」
「はい、分かりました…って、え?なんで私が?」
「これ決定ね」
「えーっ!」
シュナは露骨に嫌そうな顔をするが、知らない。勝手に俺に審査をさせるなら道連れだ。
「私そんなにわかりませんよ」
「大丈夫大丈夫」
俺だって分からないもん。
「まずは剣士からか」
剣士五人の顔を見る。一人顔見知り、後は知らん男達。
「よし、じゃあティガでろ!」
ティガが呼ぶ。と言っても直ぐ後ろについてきていたので、俺より前に出ただけだ。
「これから、見極める。一人ずつ、ティガと戦え」
そう言って俺はマントを翻して席に戻った。
そして、程なくして試練が始まった。と言っても、ティガが余りにも強すぎたため、冒険者はみな為すすべもなくこてんぱんにされ、一瞬で終わってしまった。
「あの…ジークさん。これどうするんですか?」
「ん〜、」
はっきり言って全員の実力は同じように見えた。だって全員、一撃で仕留められたし…
一人は採ろうと思っていたが、これではどうしょうもない。
ここは、ティガに任せよう。俺はティガを手招きして呼び寄せる。
「主、やはりこの中ではあやつが良いな」
ティガは帰ってくるなり、そう嬉々として言った。え…あれで違いが分かるのかよ…
「あ〜それってだ…」
危ない危ない、これでは俺の威厳が保たれないではないか!え〜実力すら見抜けないの〜とか言われたらもう泣いちゃう!(見抜けないけど)
「ん〜、やっぱりシズカかな。あの東出身の…」
俺は適当に知っている名前をあげた。後は横目でチラリとティガの反応を見る。
「………」
おっと、違うようだな
「だが…」
「流石だな主!我と同じ意見だ」
おっと正解だったのか…それなら早く言えよ!
結果 剣士はシズカ合格
「え〜っと、次は…弓使いね。ドライ頼む」
「はい」
ドライは前に出て、地面から太い蔦を出した。そして、その蔦を一直線に並べた。
「んじゃ、ここに弓放って」
この試練ではどれ位貫けるか測る。一番簡単で楽な方式だ。
でもさ…
俺は4人の冒険者が射抜いた後の蔦を見る。穴どころか、傷すら付いていない。あの、ドライさんや、初心者用だからね?そこんとこ分かってる?
初めてみたよ、弓が突き刺さらずにポーンとはねかえるところ。放った本人のあの開いた口どうするのよ。
「和街出身のミスズです。宜しくお願いします」
最後の冒険者はシズカ同様、東出身の女の子だった。
「『聚斂』」
何か凄い力を感じる……気がする。
「これは…周りの魔力を弓矢に集めてるんですね」
シュナが訊いてきた。え…そうなの?
冒険者は普通、魔力の流れとか感知している。俺はできないけど…。俺はミスズを見た。
「………いつ放つんだ?」
「いや知りませんよ。冒険者じゃないんですよ。ジークさんの方が詳しいですよね?」
「ジーズラに弓矢いないからな〜。分からん」
「え〜」
ミスズはかれこれ5分位溜めている。そろそろ放ってくれないかな〜。寝ちゃいそう。俺はうつらうつらとしていると耳の奥の方から
「『爆裂』」
空気を切り裂く音が聴こえた。俺の意識は一瞬睡魔に襲われ、落ちたのだが、その音で直ぐに目が覚めた。
周りが斜めに傾いていてざわざわしている。弓矢を放ったミスズは何故か青ざめている。おっと斜めに傾いていたのは俺の顔だったか。一瞬寝てしまってたからか…あ!それでか、ミスズが青ざめてるの。俺が見てなかったからか。これは悪いことしたな
「あ、あの、ジークさん大丈夫ですか…?」
「ん?大丈夫だけど、なんで?」
「そ、そうですか…良かったです」
と、こちらへ猛スピードでドライが寄ってきた。
「申し訳ございません主様!」
寄ってきたかと思うと、いきなり土下座をしだした。
「え…何が?」
「いえ、とっさに出た私の蔦が…」
「おい、ドライ、そういうことではないぞ」
ドライが何か言おうとすると、ティガが止めた。
「主はそんなの気にするなと仰られてるのだ。試練のために弱くしてるのは分かりきってるだからな」
うんうん、そうなの?というか本当に何があったんだ?
「も、申し訳ございませんでした」
スズネもやって来て、こちらも土下座する。
「お目にかかれるようにと、普段より多く魔力を溜め込んだせいで暴発してしまい、このような目に…腹を切ってお詫びします!」
そう言って、スズネは短刀を取り出した。
「まぁ、別に大した事無かったしな…?そんなことしなくていいよ」
「いえ、それでは…」
「これは命令ね。後君合格でいいから」
もう何か面倒くさいから合格でいいや。
俺は一応、横目にドライやティガを見るが、ティガはうんうんと大きく頷き、ドライはまだ少し怯えている。まぁ、採って大丈夫だろう。
俺は不意に後ろを見ると、この試練のために張られていた結界に小さいが穴が開いていて、そこからひび割れている。
ん〜、もしかして弓矢俺の方に向かってきてたのか…?ま、まぁそんなこと…ないよな…
あの結界はSランクのアーティファクトで作っものだ。ここはルーキー選考だから、あんなのを傷つけられるわけない…よな?
俺は何か重要な問題な気もするが、思考を放棄した。