最終選考 3
「アレンの馬鹿野郎!私が居なかったらどうしたのよッ!これもうほぼ殺人だからね?」
ナースの格好をしたイシスがアヤナの手当をしながら文句を言う。
「いや〜つい」
アレンは特に悪びれた様子もなく、しまったしまったと笑った。
「まぁ、よく近くにいたなぁ〜ありゃあ直ぐに回復魔法でも使わねぇと死んでたもんな」
アレンはしっかりとアヤナを斬っていた。体は斜めに斬れ、内臓まで全てアウトだった。しかし、そこに居合わせていたイシスが目に止まらぬ程の速さで、回復魔法を掛け、なんとか命に別状はなく済んだ。
「そりゃあジークに言われたからね」
「ジークがイシスを?」
「うん」
「くぅ〜やっぱジーク流石だわぁ〜。あ〜決闘してぇ!」
アレンはうずうずしてきたのか急に腕立てを始めた。上半身は左手の親指一本で支えて、肘を曲げ、あげる。これがアレン流腕立てだ。アレンの夢はこの支える親指をなくすことだ。
「そういや、そっちの試練の方は良かったのか?離れて」
「うん、ジークがそれよりそっちの方に行くほうが大切だからって。これでよし」
一応の手当が完了して、一息つく。
「じゃあ、治療も終わったし、私は試練のとこ戻るね」
「あ、俺も」
「姉上!」
「姉様!」
扉が勢いよく開いて、二人の女性が入ってきた。二人とも黒髪で黒目。東出身だろう。
「姉様は無事ですか!?」
「大丈夫大丈夫、私がいたからね」
「そうですか…!ありがとうございます」
安堵したからか、髪の短い方はその場で膝を落とした。
「……おい」
もうひとりがそれを支えて、立たす。
「あの、私達ここにいていいですか?姉様の容態も心配ですし…」
「ん〜、いいけど試練はいいの?」
「はい、もう終わりましたので」
「合格か?」
アレンが横から尋ねてきた。
「…いえ…残念ながら…」
「私も」
空気が一段と重くなった。イシスが見えないところで、アレンを抓る。イシスが余計な事を言うなと口パクで言うが、アレンはよく分からず、イシスを抓った。ここで小さな小競り合いが起きたことは、『ジーズラ』の名誉のため、秘密にしておこう。
〈最終選考を終了致します。しかし、この度前途有望なルーキーも採りたいと考えております。D〜F級の冒険者の皆様、中央会場まで起こしください〉
「お、良かったなお前ら。さっさと行ってこい」
〈なお、この審査では『ジーズラ』のリーダーならびにこの『ジーズラ団』のギルドマスター、ジーク・コーズラさんが直接拝見します〉
「じ、ジーク殿が見るのか!?早く行かなければ!」
そう言って、二人はアレンとイシスにペコリとお辞儀してから、走って去っていった。
「おぇ〜、気持悪い。なんであんなこと言うんだよ」
俺はまたトラウマの舞台袖で嘆いた。
「まぁ、いいじゃないですか。その御面とリルちゃん達連れていけば大丈夫ですよ」
「はぁ…」
俺は俺の従魔を召喚させる。召喚といったけれど俺にそんな大層なことはできないから、要は来てもらっただけだ。
一匹目はフェンリルのリル。さっきアレンの竜巻を止めた奴だ。風魔法を駆使する。
二匹目は鳳凰のフェニ。蒼い炎の鳥(元は赤かったのだが…まぁこれはまた後ほど。因みに気分によって紅くなっているときもある)。見た目の通り炎魔法を駆使する。
三匹目はドライアドのドライ。木の聖霊で美しい。植物系を操る。魔法かはイマイチよくわからん。
四匹目はよく分からん種族のティガ。雷を操る虎だが、剣が使える。剣は咥えている。
五匹目はセイレーンのイレナ。歌声とハープの音色はとても美しい。水魔法を駆使する。
この五体だ。因みに冒険者の等級で例えるなら、こいつら全員S級。(ジーズラのメンバー全員S級、俺はSS級)
じゃあ、トラウマの場所に行くか。俺は御面をつけ、従魔五体を引き連れて出ていった。
「あ、目が覚めたのね」
アレンは指一本の腕立てから無しでの腕立てへの挑戦を試みていたのをやめ、起き上がった。
「ーーーッ!ここは…」
「治療室よ」
「そうか、済まなかったな」
アヤナはイシスにお礼を言った。
「あ、でも、貴方合格だから心配しなくていいよ〜!なんなら、『ジーズラ』にさえ入ってもいいと思うし!」
イシスが親指を立てて言った。しれっと簡単に言っているが、これは非常に凄いことなのである。『ジーズラ』は今までの選考で誰も新たにメンバーは追加してこなかった。それは何故か?単純に弱かったからだ。自分達についていける人がいなかったからだ。しかし、今回誘ったということはお目が掛かったということなのだ。つまり、アヤナは非常に強い。
「済まない、それも取り消してほしい」
アヤナはイシスの目を真っ直ぐ見て応えた。
「え?なんで?」
イシスはキョトンとした。『ジーズラ』に入れるのを断る理由なんて普通はないはずだ。
「済まない。実は元々入る気は無かったんだ。妹達がいてな、そいつらがここに入りたいと言ったもので、私が入るところに値するか確認しに来ただけなんだ。本当に済まない」
「ふーん、そっか。残念。……まぁ、ジークが手を出しそうだったしそれはそれでいっか」
「ん?どういうことだ?」
「あーいや、こっちの話。まぁ、妹ちゃん達が入れるか分からないけど、安心してね」
「あぁ、ここは良い場所だ。妹達が入れたら宜しく頼む」
「うん!ビシバシといくからね!」
外から歓声が上がる。新人の選考の説明が始まったのだろう。
「じゃあちょっと私あっち見に行くね」