最終選考
「あ、シズカ」
俺は見覚えのある、顔を見つけて近づく。
「おぉ、ジーク殿。貴殿も受かったのだな」
「う…うん、まぁ」
失格になりましたとか、本当はクランマスターですとかは絶対に言えない。
「一次通過された皆様は会場へお集まり下さい」
アナウンスがなって、ぞろぞろと会場に集まってくる。ざっと250人位の人混みだ。
「うげ〜、気持ち悪い」
もうちょっと空けてるとこ行こ。俺は掻き分けて、できるだけ外に外に行く。
「何してるの」
人混みの外にようやく出れると、ルナが突っ立っていて、不思議そうにこちらを見つめる。
「ルナこそ何やってるんだよ。集合だって言われただろ?」
「……ジークを探しに」
うん、全面的に俺が悪いな。
俺は集合場所に向かって歩き出す。
「って、ルナはどこ行くんだよ」
俺とは真反対に進もうとするルナを腕を掴む。コイツ多分逃げにきただけだな。
「どこって…どこかに」
「ルナも来るんだよこっちによ」
ルナの腕を引っ張って、集合場所に急いだ。
「遅ぇぞ」
ザルツが貧乏揺すりをしながら声を荒げる。しっかり来たんだな…。まぁこれで来なかったらシュナの怒りが凄いことになるからな。
「ジークさんやっと来たんですね。じゃあ、始めますよ」
シュナがマイクを持って、ステージに出ていく。あれ?昨日は放送だけでしてたのに今回は出ていくの?
「ではこれより『ジーズラ』新メンバー選考、最終選考を開催します」
昨日より人数が減ったはずなのに、昨日より大きな雄叫びが聞こえてくる。獣なのかな君たちは。
「それでは開始の前に今回審査をしてくださるメンバーです。先ずは『ジーズラ団』のNo.2!甘いマスクに華やかな剣技。クザン・ハーバーランドさんです!」
掛け声と共にクザンが華麗に登場していく。クザンの姿が一目見えた瞬間に黄色い声援が会場を包み込んだ。
「うっわ、ダサくこけろ!」
舞台袖からブーイングサインを出しておく。シュナに睨まれたのですぐに引っ込んだ。
そして、次々に名前が呼ばれていく。野盗のザルツも怠そうにはしてたが、声援を受けるとニヤニヤが止まっていない。気色悪っ!
「この剣技に勝るものはなし。究極を求め最強に至らんとする二刀流、アレン・バーデン!」
アレンの登場で客…じゃなくて冒険者達はいよいよテンションがMAXになる。
あ〜、次は俺か〜!いや別に声援とか要らないんだけど。でも、アレンであれだからなぁ〜
「そして、最後はこの方。『ジーズラ』エースにして、この『ジーズラ団』のクランマスター。この方を見て生きた敵はいない!ジーク・コーズラ!」
俺は名前が呼ばれたと同時に、少し足早に出ていったのだが……歓声がまさかのピタリと止んだのだ。そして、何故かざわめき出した。
「え〜、えっと、ジークさん挨拶を」
「…まぁ、頑張ってください」
会場がシーンと幻聴が聞こえる程、静まり返った。
先に凄い歓声を浴びたメンバー達がクスクスと笑っているのが鼻につく。
「おい!俺はなぁ!本物が来るのを楽しみにしてたんだ!偽物なんてすっこんどけ!」
誰かは分からないが叫んだ。
偽物?俺が?おいおい冗談だろ…取り敢えず今叫んだ奴は落ちたということで…
「そうだ!本物のジークさんは3mの巨体だって聞いたぞ!」
「そうだそうだ!片目は眼帯、そしてその下には龍と闘ったときに出来た傷があるんだろ!」
いやいや、3mってなんだよ化け物か?それに龍と戦って、片目にだけ傷を負うって逆にどうやったらできるんだよ…普通抉れるか、そのまま死ぬだろ…
俺は否定を述べようとしたが、同調圧力が凄くなってもう何も言えない。それにここで声を上げるのもダサいしね。まぁ、決して心が折れかかっているわけとか…じゃないんだからな!
「いや、待てお前ら!!」
おぉ!優秀なやつがいたぞ!採用しよう!俺はそいつの発言に耳を傾けた。
「これはわざとだ!わざと偽物を出して、俺達が晴れて『ジーズラ団』に入れたら本物に会えるんだ!」
「あぁ!なるほど!」
「そういうことか!」
え…?ねぇ、ちょ…待っ…
「やっぱりクランマスターは違うな!」
お、おい、そっちで勝手に盛り上がらないでくれる?そうか!じゃないんだよ。本物はここにいるからね?
そんなことはお構いなしに、会場はどんどんと盛り上がっていく。
それに伴い、クランメンバーからの嘲笑が痛々しく刺さってくる。後で絶対コイツラ許さない。
(よし、引き籠もろう)
俺はマイクをそのまま下において、会場から逃げるように去った。
「では最終選考開幕!!」
「いつまで泣いてるんですか」
シュナが呆れて溜息を吐く。
「もう…いいよ……俺は…どうせ知名度ないし……分かってたよ……昨日の1次選考でちょっと話しかけた人にも気づかれてなかったもんね……ジークって名乗ったんだけどな…それでも気づいて貰えなかったもんな…」
あぁ、空って青い。もう、なんかクランマスターとか辞めようかな。元々向いてなかったし…というか俺いなくても平気じゃない?
「そりゃあだって最近な〜んにも活躍とういうか表立ってすら何もしてないもんですね」
「……うん」
「そりゃあ仕方ないですよ。知名度なんて無くて当然。どうです?この機会に冒険にまた行くってのは?」
「……無理。一緒に行く相手がいない…」
「それこそ、『ジーズラ』でしょ」
「だって…『ジーズラ』だぞ…」
「……まぁ…いいじゃないですか…面倒事は多そうですけど…」
ジーズラ団のクランを建てて間もなく俺は冒険に行くことをやめた。これはまたの機会に話そう。
「もう…いいかな…シュナにあげるよこのクラン」
「要りません。それに、このクランをくれても誰も私なんかに付いてきませんし、何より私への借金どうやって返すんですか?」
「……自己破産」
「許しませんからね」
シュナは怖い顔になった。が、俺がそれでも落ち込んでいるので、少し悩んだような顔になった。
「あぁ…俺はもう…どうせ…」
「ジークさん顔上げて」
「んぁ?」
キスでもして…
ばしッ!!
痛快な音が響いた。
「……うぅ……痛いぃ…なにすんだよシュナ!」
「いいですか?あんな下っ端に認知されてようがされまいがどうでもいいじゃないですか。ジークさんの周り、近しい人達かが貴方を慕っているんです。それでいいじゃないですか」
「あの『ジーズラ』のメンバーが…?」
「慕ってなかったらついてこないでしょ。少なくとも私はジークさんのことを尊敬はしてないですけど慕ってはいます、尊敬はしてないですけど」
「……なんで2回言うの…」
「重要なことですから」
「あ、はい…」
シュナはほらほらと言って、俺を立ち上がらせる。
「それじゃあ審査はいいですからーー」
シュナはニッコリと微笑んだ。そして、会場を指さして
「あのバカメンバー達を止めてきてください、リーダーさん」
取り敢えずこの場から分かったことは、人間が宙を舞っていることだけだ。
あー、これは人選ミスだな。