合流4
「あれー?シュナちゃんじゃん。まーだ生きてたんだ」
イシスは珍しそうかつ少し残念そうに見つめた。
「まだ生きてるわよ」
「残念ーっ!」
イシスは襲ってきたもう一匹のキングワ-ムを見向きもしないで、仕留めた。
(相変わらずでたらめな強さね)
シュナは、はぁとため息をついた。スズネの矢でも効かなかった硬い皮膚を持つキングワームでさえも、イシスの振り回す杖の威力は耐えられない。どんな馬鹿力なんだか…
「そこの人!!まだもう一匹いる!」
コルンが叫んだ。
「ーーーーえ?」
刹那、イシスの下で地響きが鳴り、キングワ-ムが姿を現し、そのままイシスを飲み込んだ。
「ッ!.....そんな!」
あまりの一瞬の出来事に頭が追いつかない。
シュナはキングワ-ムを見上げた。が、なぜかそいつは微動だに動かなくなった。
そして、急に腹が膨らみだしたかと思うと、はじけ飛んだ。
「ふー危ない危ない」
イシスは普通一瞬で溶けてしまうキングワームの胃の中から出てきたのだ。
全裸で。
「あっ!」
「......あんたねぇ」
おそらく、衣服は胃酸で溶けてしまったのだろう。溜め息が止まらない。男の中には鼻血を出している奴もいる。
「おーい、イシス。ほらよ」
そこへジークが遅れてやってきてイシスに服を投げた。
「流石ジーク♡」
イシスは嬉しそうに受け取ってまるでサーカスの劇のように一瞬で着替えた。
「ジークさん..」
シュナがジークの元に寄った。
「おう、良かった生きてーー」
バチンッ
という快音が響いた。
「何が生きてて良かったですか!いったい今まで何処にいたんですか!」
てっきり、「心配したんですよ、ジークさん♡」とか甘えてくるものだと思っていたので、現実との境にショックが大きい。
「いや、ちょっと」
「そ.れ.に.イシスがいるって事は一度地上に戻られたんですか!?こっちはなぜかずっと寝てるキリルの世話までしてたのに!」
「いや、こっちだっていろいろ大変だったんだよ」
「じゃあ何してたんですか?」
「.....時間が過ぎるのを待ってた?」
シュナの額に青筋が浮き出た。これは言葉を間違えたな。
「言いたいことはそれだけですか?」
「いや、誤解、だから!その..」
「君達、その辺にしてくれるか?喧嘩はここを出てからにしてくれ」
隊長が割って入ってきてくれた事によってその場はなんとかなった。流石は我らが隊長。よっ、国内一!
心の中で持ち上げておく。それはそうと隊長はこの一週間ほどで大分老けたようだ。
「ジーク殿。まずは生きていて良かった。して、これからどうする気で?」
「ん?あぁ、取り敢えずアレン達と合流するか」
「おう、済んだのか?」
満身創痍のアレンに達に声をかける。
「ああ!何処行ってたんだよ!イシスが居なくて大変だったんだぞ!」
「まあまあ、それも修行だろ?」
俺はアレンを軽くいなす。
「…………ようやく帰れる」
誰かがポツリと呟いた。
そう、このボスが現れた部屋はボスが倒されたことによりコアルームへと変化したのだ。
生き残っているのはアレン達を含めず、たった18人。入る前は倍以上の人がいた。
「帰りましょう」
重苦しくなった空気で、シュナが言った。
「……そうだな」
隊長は後ろに振り返って手を合わせた。それを見た人も同じように手を合わせた。
ダンジョンでは簡単に人が死ぬ。たとえどんなに強くても運が悪ければ糸が切れるかのように。それは抗えない運命のようで俺達冒険者を取り巻いている。
だから冒険者は毎回命懸けで魔物と戦っている。ギルドも死ぬ危険を減らすために適正なランク付けをしている。
全員ダンジョンの外に出た。
太陽が眩しく輝いている。今は昼時だ。
「大変だったな」
俺は新人4人に話しかけた。
「……はい。でも俺達はラッキーでした。強い敵はキリルさんが全てやっつけてくれてましたし。自分の無力さに気付かされました」
アキトが落ち込んで言った。
「私も誰かに守られていないと戦えなかった。キングワームにも効かなかったし…あの時イシスさんが来なかったら死んでた…」
「私もだ。皮膚に傷ひとつつけられなかった」
「私も皆をもっと強く出来れば良かった…」
同情するように3人も言った。
「………大丈夫だ。落ち込むな。今日ですべきことことが分かっただろ?後は必死に鍛錬すれば実力はついてくる。それで、強くなったらキリルみたいに後輩を助けてやれ、な?」
「「「「………はい!」」」」
あーいい事言ったなー俺。
「それでなんでコイツは起きないんですか?コイツが起きてたらもっと簡単に出れたかもしれないのに」
シュナは俺の背中ですやすやと寝ているキリルを指さした。それにしてもコイツって…大分怒ってるな
「あー、キリルはちょっと特殊でな。一週間寝て、後の2ヶ月は寝ないでいけるんだ。まぁ、今回は運悪くその一週間だったってわけだな」
「へぇーそういうこと……そういうことなの?」
普通の人間とはかけ離れた能力にシュナは戸惑いの表情が隠せていないようだ。
「ねぇ、せっかくだからパァーッと行こう!ジークの奢りで!」
アンが大声を上げた。すると周りは少し困惑したが、流石は冒険者、そういうところはちゃっかりしていて口を揃えて喜んだ。
いや、奢るとかは言ってないんだけどね。というか、俺借金あるんだけど…?
俺は皆の表情を見渡した。
皆疲れ切っているようにも見えるけど、今を最高に楽しんでいる。
はぁ、仕方ないか。
「ったく、しゃーねぇな!奢ってやるよ!」
「シャァーー!」
「アザーースッ!」
こうして長かったダンジョン調査も終わりを告げたのだった。