合流2
剣と剣が交差する。
空気を切り裂くような音が響き、火花が散る。
ダンジョン内は凸凹として、荒れ果てている。
俺は隆起した岩の上にどっしり座って戦いを観戦している。
近くには仲間達が腰をおろして自分の番がいつ回ってくるのかワクワクしている。
どうしてこうなったんだ?
遡って、魔物の軍勢を倒した後のことだ。
「はぁー、強い奴と戦いてぇ」
アレンがいつも通り、戦利品を回収しながらため息を漏らした。
「ほんっとそれ」
イヴもまだ不完全燃焼なのか戦利品回収の手を止めて杖をブンブン振り回す。偶にそれで、魔法を本当に放ってしまうので本当にやめて欲しい。
「こっちは終わったぞ」
「私もー」
全て回収したところで一度集まる。
「じゃあ行ーー?」
急に俺の視界に何か変なものが競り上がってくるのが見えた。
他のメンバーも何か感じ取ったのかその方向に目を向けた。
岩…なのか?
岩の隆起は途中で止まり、途端パックリと割れた。中から全身鎧の魔物が現れた。見るからに強そう…というか多分あれはこの階層のボスだろう。この階層はボス部屋はなかったようだ。
「………っし、」
アレンは嬉しそうに腕を回した。
「じゃんけんだな!」
俺達のパーティーはよく強敵が現れるとじゃんけんをする。それは何故かと言われれば、戦闘馬鹿だからだ。どうしても一人で戦いたいため、喧嘩にならないように毎度毎度じゃんけんなのだ。
俺は昔のようにチョキを出して一人負けを選ぶので問題はない。
結果最初に戦うのはイシスに決定した。
「やったー!観ててね♡」
イシスは俺にウインクをして杖を握りしめた。
イシスは回復士である。もちろん回復士は非戦闘員である。というかそうであるのはずなんだがーー
イシスはボスと対峙すると、すぐに走り出し、高く跳び上がった。そして、杖を振り降ろした。
地面は抉れ、ひび割れる。
ボスは後ろに翔んで、躱しているがあんなもの当たったら只では済まない。本当に回復士なのか疑ってしまう。正直イシスが仲間を回復している姿より魔物を殴っている姿の方がよく見る。
イシスは更に攻撃を繰り返した。しかし、ボスは観察でもしているのか、全て躱している。
「んーふんっ!」
当たらないと悟ったのか、イシスはこれまで以上に力を込めて大きく振り降ろした。
もちろんそれは当たらなかったが、それは問題なかった。
地面に攻撃を打ち込むことで、周りの地面が隆起を起こしたのだ。それは躱したボスの足元を狂わせ、体制を崩すことに成功した。
「はーい、ざんねーんっ!」
そのチャンスを逃さまいとすぐに持ち手を変えて、攻撃をーー
「ーーえ?」
確かにボスは体制を崩していた。しかし、その崩れた体制にも関わらず、攻撃をしてきたのだ。
イシスは攻撃する体制を無理矢理かえて、防御体制に移行した。間一髪防いだと思われたが、
「ちょ、それ反則〜!」
いつの間にか左手に握られている槍を見て呟いた。
ーーーーーグサッ
イシスの腹部に槍が貫通した。
「うっ…痛っ」
血がだらだらと流れ、口からも血を吐いた。
ボスがそれで手を緩める筈もなく、槍を仕舞って、大剣を振り降ろす。
イシスは後ろに飛び退くが一瞬遅かったのか、腹部をザックリ斬られてしまう。
「うぐぅッ!」
直ぐに次の斬撃がーーー死
ーーガキンッ!
しかし、次の斬撃はイシスに届くことはなかった。ボスとイシスの間にはルナが割って入っている。
「……交代」
「うぅ…仕方ないか…」
イシスは残念そうな顔をして、自身に回復魔法をかけた。イシスが回復魔法を使って戦ってしまうと魔力が尽きるまで半永久的に続いてしまう。そのため、イシスは回復士なのに回復魔法なしというなんだかよくわからないルールを課して戦っているのだ。
(それにしても、あの魔物強いな)
イシスは回復士といっても普通のSランクの魔物なら倒せるはずだ。しかし、倒せないとなると、S+ないしはSSランクとなる。ただ、もしSSランクの魔物だったとしたならばかなり、いや非常にマズい。いくら『ジーズラ』が強いといっても個人では流石にSSランクの魔物には勝てない。もちろんパーティーでは倒したことがあるが、それでもギリギリだった。
ルナとボスとの戦いは激しさを増す。もう完全に目視できず何をやってるかわからない。ただ、唯一分かることはルナの傷が増え、押されてきてるということだけだ。
ちらりと隣を見れば次の番であるイヴがじっと真剣な眼差しで見ていた。
イヴの魔法で倒せなかったら正直本当にきついのだ。アレンの方がルナより若干強いが、そこまで大差はない。つまりルナが負ければアレンもあの魔物に勝てないはずだ。
じゃあどうなるかって?
ジンは強いけど、やはり守り役であるため勝てない(負けないだろうけど)。となると…俺の番になってしまうのだ!これは非常にマズい。あんなのに勝てる訳ないし。
「……くっ!」
ルナはボスの斬撃を食らって膝から崩れ落ちた。交代だな。
どうせ怪我したところでイシスが治すので特にヒヤヒヤすることはない。
「いくよー!『炎帝龍の息吹』」
イヴの最高峰の炎の魔法だ。威力は絶大で、ボスにも直撃していた。これは…勝負アリ…か?
土煙が開けていく。
「……ウソーッ!」
気づいた頃にはボスはイヴの眼の前に差し迫っていた。
(強力な魔法障壁か…?)
魔法障壁がある場合は撃ち続けて壊す或いは、それを上回る魔法をぶつけなければならない。今の魔法以上となると溜める時間を要する。かといってその時間をあのボスが待ってくれるわけではない。
「んーー」
イヴは風魔法を使って距離をとる。
それと同時に魔法を唱え始まる。強引に強力な魔法を放つつもりだろう。
ーーーーが、
「ーーえ?」
先程とは打って変わって、ボスが高速で近寄ってくる。これには流石のイヴも対応出来ない。
(あーあ)
俺はふとため息を吐く。
このため息をは別に負けたイヴに対してではない。元気よく準備運動をしているアレンに対してだ。
(こういうところなんだよなー)
ボスに目を向けると、イヴの前にジンが立ちはだかり攻撃を受けている。
これには完全にイヴの顔は恋する乙女の顔だ。
「あ〜早く殺りてぇ〜っ!」
ニャハハと笑うアレンが少し可愛そうに思えた。まぁ、さっさと諦めて違う方にいってくれたら丸く収まるから良いんだけどね。
さて、そろそろか
俺はリングを一つ起動させる。
「………お、良かった良かった」
俺はルナにポーションを渡して、イシスを手招きする。
まぁここはアレンに任せるとするか。
俺はゆっくり立ち上がって、イシスと共にある場所へと向かった。