合流
「っし。ここだな十階層は」
アレンが張り切って声を上げる。
「アレン、ちょっと煩い!寝起きに響くのよ!あとここ九階層だから!」
イヴがアレン以上の大声で怒鳴った。正直どっちもやめて欲しい。あとついでにここはまだ八階層だ。
「なぁ、今日はちょっと急がない?まぁ、無事だとは思うけど心配だからさ」
「私も!そろそろ限界…ムラムラが…」
俺はイシスにデコピンを食らわせた。ほんとこのパーティーにまともなやつが欲しい。
「私も賛成。もっとドッカーッンていう魔法放ちたい!」
「うむー、仕方ない。急ぐか」
アレンは少し悩んで答えた。
そこからはあっという間だった。ちょっとの間姿が見えなかったルナが全て罠を解除していて(なんなら魔物も)なんの危険もなく十階層にたどり着いたのだった。
「んっ!?強敵が俺を待っているっ!」
十階層に入った途端、何か変なセンサーが感知したのかアレンはいきなり走り出した。俺達はそれをすぐに追いかけるわけでもなく、普通に歩いて進…そうしたかったが、そんなことを許すパーティーではなく、強敵となれば我先にと戦いに行くのが信条の彼らなので全員が猛スピードで走った。
俺は一つのリングを使って速度上昇を行い彼らにギリギリ付いていった。
「お、発見!」
アレンがさらにスピードアップして走っていく。危ないからやめて欲しいが言っても聞かないので諦めている。
「うぉ!?なんだ!?めっちゃいるじゃん!」
ほら…そういう罠があるからやめて欲しいのにな。
「まぁいいや、イヴ、頼む」
「イヤ。こんなところで放ったら瓦礫で埋もれるわよ」
イヴの頭には零か百しかない。全力オアしないのどちらかなのだ。力を調節してくれたらこういったダンジョンの中でも役に立つのだが、何分する気がないので無理だ。ちなみに一度ダンジョン内で魔法を放って瓦礫で埋もれたことがある。
「ん〜、そうか…」
アレンは襲ってくる魔物を何か考え事しながら斬っていく。
「お、そこか」
アレンは何を思ったのか、ある方角に向かって走り出した。その前方にいる敵は無惨にも切り刻まれていく。
「ッ!」
アレンは途中危険を感じ、左に飛んだ。すると自分のいた直線上の魔物が全て死んだ。
矢が貫通したのだ。
「ソウルガイヤか。あーあハズレか」
続けざまにソウルガイヤは矢を放ってきたが、アレンはそれを素手で掴んだ。そして、
「ほら、返すぞっ!」
矢をソウルガイヤの方へ投げ返した。矢はガイコツの目の部分に刺さり貫通した。
少し時間が経つと目に見えて魔物の数が減ってきた。
圧倒的な力を誇るアレンが敵を蹴散らし、素早い動きで次々と殺っていくルナ、一つ一つ的確に倒していくジン、戦わない俺やイヴに群がってくる魔物を無惨に杖で叩き殺すイシス。
なんか、昔を思い出した気がした。
そして、残党狩りも終え、一同は集まった。
「ん?ジンそれは?」
ジンは狼の毛皮や角を持っていた。こういう大量の魔物がいるときは普通最後に一気に戦利品を漁る。
「……………」
「いや喋れよ!」
「フェルリルの角と毛皮か…強かったか?」
アレンは自分の向かった先が手応えがなくて苛立っていたのかジンに詰め寄った。
ジンは静かに首を横に振った。
「っち、なんかもっと面白いのが良かったなー」
え〜嘘〜。フェルリルってS級だった気がするんだけど〜?まぁ、こいつらならこんなもんか。
「じゃあさっさとシュナ達探しますか」
「そうだな」
時は遡って
「ーーーねぇ、起きなさいよ」
見張りの番が回ってきて、シュナはキリルを起こす。
「ー?ねぇ、ちょっと?」
シュナはしきりにキリルを起こすが全く起きる気配がない。
「ねぇっ!ねぇ!起きなさいよ!」
体をさらに揺するがそれでも全く起きる気配がない。
(死んでないわよね)
一応呼吸を確認するが、スースーとしっかり寝息が聴こえた。シュナは一つ大きな溜め息をついて、仕方がないので一人で見張りをすることにした。
(起きたら許さない…)
しかし、問題はそこからだった。
「おい!起きろ!」
団長は声を荒げるが、キリルは全く起きる気配がなかった。
「なんでっム…ムウッ!」
慌てて調査団の面々が団長を押さえた。
「し、静かにしてください!魔物が寄ってきます!」
「うっ…、す…スマン」
「で、でもだな。今日は逆にボス部屋に向かう手筈だろ?」
「はい…ですがそれは、この方達がほとんど担ってしまうでしょう?私達が出来ることなんて少ないんですから。……情けない限りですけどね」
一人の調査員は拳を強く握りしめながら宥めた。
「そうだな…」
しかし、それからキリルは3日間起きることはなかった。
「どうするんだ....」
団長は頭を悩ませた。現状キリルは起きず、ボス部屋に向かうことは出来てはいない。ただ、この場所には未だ強力な魔物はやってきてはいないのですぐ行動を起こさなければならないのかと言えば、そうでもない。
「起きるまで…待機か」
しかし、まだキリルは起きず、更に3日が経った。
「マズいな…」
食料は余裕があるが、雰囲気が悪い。最初の頃は緊張しながらだったが、だんだん口数も少なくなって、意識も助からないんじゃないかの方に持っていかれている。それに、何人か死んだ。先の魔物との戦いで重症を負ったものが事切れていたのだ。
「隊長…この人は起きるんですかね?」
「…………わからん」
キリルの面倒はシュナがずっと見ている。なぜなら、男がキリルに触れると殺される危険があるとのことだからだ。
キリルは国家指定の殺人鬼に登録されている。捕まえるだけで一生遊んで暮らせるほどの多額の報奨が貰える賞金首だ。しかし、もはや平然と佇んでいても殺せない、というか必ず返り討ちに遇うため、賞金首となっているものの彼女を殺そうと企むやつもいない。そう考えると、その彼女を引き入れているジークの恐ろしさがどれ程がわかったものではない。
「………ッ!?」
「ッ!!」
急にダンジョン内が大きく揺れた。空間認知のスキルを使うと金属のぶつかる音が認識できた。
「まさか、他の冒険者か…!」
「そうかもしれません、行ってみましょう!」