秋風冽冽
――序文――
陽がその姿を燦々と頂点まで達するまでに時間を掛けるようになった
理由は極ありふれたものである
夏の終わりが一刻と迫りながら
秋の訪れが差し迫ってきたのである
太陽の如く開け放つ扉は
少しずつ閉じられていき
鍵を掛けて蹲る準備をしている
伸ばした手の先にあったはずの熱さは無造作に消えかけ
肌に感じるのは億劫な冷気が混じっている
空の色はコンクリートに似た色に染まり
草木の葉は生気を失った黄色や溢れた血の色に化けた
砂浜に転がっていた貝殻は悲愴に視え
抜け殻の様は波に責められた心身に似ていた
熱狂は駆け抜けてその概念すら影も形もなくなり
落胆や焦燥が忙しなく押し寄せてくる
ばら撒かれた欲望の種火は
次第に勢いを失って風前となった
――独白――
だから、
その手を
私たちから離して
秋になったのだから
次を探して忘れてしまいましょう
しょうがないもの、
私たちはもうすでに
秋に浸っているのだから
その手を放してよ
夏の情熱は
廃れた秋の微熱に負けたの
冬が来る前に隠れるの
雪に埋もれる前に
寒さに潰される前に
その手を離して
震えているのを知ってしまう前に
一秒が過ぎ去る前に
不安で仕方がないのを知ってしまう前に
その手を放して
温もりを覚えてしまう前に
このままじゃあ
季節が変わらないじゃないの
もう
絶え間なく
秋なのよ