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黒い感情

前回完結した作品のリメイクです

「おい、お前が先頭を歩け」と、平坦な声音が響く。


 薄暗い森で、あまりにも無慈悲であり無情な命令が下った。

 クスクスと嘲笑うパーティが見つめる先には、魔力が編み込まれた白装束を纏う男性が両手で杖を持ち震えている。


「え、いや……」


 赤い瞳は狭まり、口はカチカチと音が鳴っていた。彼は自分の立場を理解している。弁えている。故にこの命令がどれだけ無謀で最悪なものなのかも当然分かりきっていた。


「で、でも僕は白魔道士だから……物理防御ならビスケさんの方が……」


 緑色のフルプレイトアーマーを装備し、盾を背負っているビスケを遠慮気味に見た。冷めた瞳とは目線をまじ合わせぬように。そして、気を逆撫でしないように──


「僕よりも、魔物の攻撃も……」


 小さい声で、それでも的確なアドバイスをしたつもりだった。重鎧のビスケは、敵を引きつける担当をしている前衛職だ。よっぽど自分よりも向いているし効率だっていいに決まっている。


能力向上魔法バフだって、僕が」


 俯いていた男性の前に、ビスケは大きい影を作り立つと「はあ?」と、威圧感を野太い声に乗せる。


「ふざけんなよ? リガル」


 鉄が軋む音がなったと思えば次の瞬間、青年リガルの赤い髪は掴まれる。


「い、たい……離して……」


 眉を顰めながら、リガルは両手でどうにかビスケの腕を下ろそうとするがビクともしない。筋骨隆々とし、パーティ内で一番逞しい男とそうでない男。結果は火を見るより明らかだった。


──痛いし辛いし苦しいし悔しい。ビスケを恨む前に自分をリガルは責め続けていた。


「ふふふ」

「おーおー。軽々と持ち上げるねぇ」


 周りも一切止めようとせず、笑い声だけが脳内を駆け回る。


「お前さ」


 近寄ってきたのは、無謀な命令を下したリーダー、ユミルだ。赤い胴当てのみをした軽装の剣士ユミルは、ブーツで小枝を踏み鳴らしながらリガルの脇を行き来する。


「分かんねぇかな。ビスケは大事な防御担当。ゼシカは、有能な黒魔道士。けれど、お前はたかが白魔道士だよな」

「だから、回復呪文だって……」

「いやいや。回復だってさ、ポーションやエリクサーがある。バフだって、専用のアイテムが売っている。つまり、お前の居場所はないわけよ」

「そ、そんな……ならなんで僕を……」


「そりゃあな?」と、ビスケはリガルを投げ飛ばすと目の前にしゃがみ、黒い瞳を彎曲させ怪しい笑みを浮かべる。彼の表情を眼前にし、背筋を這うは恐怖心による悪寒。心臓は痛みを与える程に激しく打ち付けた。


「これ目当てだよ」


 ビスケは、指で金貨の形を作る。


「分かったか? お前は俺達の大事な資金なわけだ。お前が死んだ時、財産や保険金を貰えるのは、同じパーティ仲間って決まってるからな」

「この方法をしってんのは、極わずがだけどな」


 ユミルは、肩を揺らして笑う。


「ほら、最後の役にたってくれよ。俺達が強くなる為によ?」


 気力も失い絶望し、声も出ないで座り込むリガルの首をビスケは掴む。


「あ~ビスケ、タグを取るの忘れんなよ」

「わかってるよ。これがなきゃ、意味ねぇからな」


 首に掛けられたタグを引きちぎると、ユミルと投げて渡す。


「ゼシカ、リガルに魔物を誘き寄せる呪文と、封印魔法を頼むわ」


 タグを受け取ったユミルは、黒装束をした女性の肩を叩く。


「ええ、任せてちょうだい」


 頷いて、黒い帽子を被ったゼシカは、リガルに杖の先端を向ける。


「サクリフィシオ」

「アルターリア」


 黒いエフェクトがリガルを包む。


「じゃあ、身ぐるみ剥いで手足を木々に縛って終わりだな」

「はは、コイツ、もう何も喋らねえよ」


 ビスケは、杖や金品を奪った後、木に縛り付けながら蔑視をリガルに向ける。


「うるさくなくていいわ。早いとこ済ませて帰りましょ? 此処には変な噂もあるし」

「だな、早いとこズラからねぇと俺らも魔物に囲まれちまう」


 段々と遠のいていく三人が、リガルのボヤけた視界で揺らいでいた。


「はは……僕はただ……仲間を護れるようになりたかっただけなのに……母さんや父さんみたいに……」


 目を瞑り、自分の人生を呪っている矢先、次第に嗅覚を刺激してきたのはアンデッド特有の腐臭と魔獣特有の獣臭。


「死ぬんだな……」


 ──死にたくない。


頭で強く願おうが、現実はリガルに希望ではなく絶望を容赦なく叩きつけた。


 涙が頬を伝う。


「グルァァア!!」


 魔獣の飢え、殺意に満ちた鳴き声が轟、リガルの腹には鋭い牙が入り込んだ。


「いだい……イダイイダイイダイ!!」


 腹は熱を帯び、血が滲むのを感じる。


「だずげて! だれが……! だずげ……」


 ひたすらに、ただひたすらに、リガルは肉を裂かれながら、救いを求め続けた。


 意識を失うその時まで──



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