初神者講習 by ソルティナ
「俺についてこい!」的な。
先日、そんなクソ熱い宣言をした俺だったのだが。
街で一番の豪華な宿、最高級の部屋。俺はそこで、善意の暴力にさらされております。
「エンデュランス様、こちら、本日の供物になります。」
「あ、どうも。」
「こちら、街の有志から贈られた御召し物にごさいます。」
「こりゃまた立派な。えーと、直々に礼を伝えるので、祭礼の間に通しておいてくだ、じゃない、通しておいてくれ。」
「畏まりました。」
と、こんな感じで。人に神様を祀るルールみたいな物が有るように、神にも人と接するルールがあるらしく、俺はソルティナ監修の元、若干のスパルタ気味に詰め込み教育されてる最中です。
いや、実際に辛かったり苦しかったりって事は全く無くて、むしろ俺に気を使う誰かに気を遣わない事を覚えるのが、ごめん、やっぱつれぇわ。
「うーん、まあつっかえながらだけど、取り敢えず合格にしましょうか。」
「やった、マジ? はぁー、横柄に振る舞うのって疲れるぜ…」
肩をさすりながら、とんでもなく豪華な椅子から立ち上がる。めちゃくちゃ座り心地が良くて、ずっと座ってたらやばい。ダメになる。
「あれで横柄…? デュランってどんな生活してたのかしら。」
ソルティナはそう言うが、現代日本で普通に生活してたら、横柄な態度取ることってまず無いと思うんだけど。あ、デュランってのは俺の呼び名ね、エンデュランスって長いから。
「とにかく、これでいつ教会に移っても大丈夫そうね。一応は貴方がここの主神って事になるんだから、頭を下げたり敬語を使ったりしない事、分かってるわね?」
この数日で何度も言われたこの言葉。目上の人に対するような行為は一切取るなと言う事である。
当たり前だが、神は人よりも上位の存在である。そんな俺が下手に出ると、相手が恐縮してしまうし、それを良く思わない人からは攻撃対象にされてしまうとか。
どうしてそこまで厳しく守らなければならないかを聞いた事がある。それを、
「神と人の付き合い方に、間違いは許されないのよ。そうじゃ無いと、碌なことにはならないから。」
ソルティナがすごく悲しそうに言ったので、深くは聞かなかったが、それなら絶対に守らないといけないと心に誓った。
さて、ソルティナの期間から数日間の事を軽く説明しよう。
三日三晩、それこそ本当にお祭りだった。
光の神を信仰する正教会の手前、邪神の教会以外はなるべく信仰を隠し続けていたらしい街の人だったが、まあ、はっちゃけた。
街のどこに行っても神様神様と崇められ、酒を勧められ、握手を求める列が伸びた。アイドルか。
そんな祭りの熱狂の中でも、粛々と教会の修繕は進められ、気がつけば倍以上の大きさになった教会は街一番の建物となり、そこに俺とソルティナの居住する部屋も整えられているらしい。
この部屋より豪華なんだって。俺、部屋から出られないかもしれん。
そんな感じで過ごしているうちに、いよいよ教会に神が入ると言うことになり、街のボルテージは最高潮に。
そして俺はその間、ソルティナに厳しく育てられていたと。
翌日である。
宿から外に出ると、花道のように人が割れて道が出来ていた。教会の教皇であるお爺さんと、街長。更に俺の手助けをしたと言うことで正司教から枢機卿になったジュナイさんが恭しく礼をして、俺達を待っていた。
「邪神様方にあらせられましては、ご機嫌麗しく。この度、聖域たる教会への案内、その栄誉に預かりました、ダーリントンと申します。」
「同じく、ジュナイブバルトナーと申します。」
「街を任されております、ガ・リラと申します。」
三人の礼を受け取ると、顔を上げさせる。今更何をって思うかもしれないけど、いわゆる、儀式とか儀礼ってやつだね。
ここでちゃんと出来ないほど馬鹿では無いので、俺もしっかりと応えていく。
「ご苦労である。神たる我等を迎える準備が出来ているのなら、然るべき場に案内せよ。」
「皆の忠心、しかと届いた。この街に、加護の在らん事を。」
当然ソルティナも威厳マシマシです。
そうやって俺達はこの日、正式にヌーチカの神様になったのだった。
ーー ある邪神の想い ーー
きっと、これは正しく無いやり方だわ。
あの日、私達が封印される事を選んだ日。私はそんな思いでいた。
涙で美しい顔を濡らし、腫れた目で謝りながら、それでも求められた役割を果たしたあの子。
あの日、意地を張らずに何か声を掛けてあげればよかった。そうしたら、あの子の心は少し楽になったかもしれないのに。
私の前で必死に神の作法を勉強する彼を見て、そう思った。
別の世界から連れてこられた、ほんの一欠片の人間の魂。邪神になってすぐに、私の封印を解いてくれた、最後の邪神。
神と人が何かを間違えば、それは殆どが悲劇になる。だから、随分と厳しくしているのだけど、素直に頷いて教えを乞う黒髪黒目の彼。
そんな彼を見ていると、あの時代に諦めた何かが、なんだかとてつもなく軽いものになりそうな、あの悲劇と後悔を、全て浚ってくれそうな、そんな予感がする。
これからは楽しく過ごすことが出来そうで、苦戦する彼を見ながら笑ってしまう。
これから長い、とても長い時を共に過ごす事を想って、どんな表情を私がしていたか、それは自分でも分からない事なのでした。なんてね。