貧乏隠し
こんばんは、岩森大地です。
久し振りの投稿になりますが、それがまさか投稿済みの作品を書き直したものではなく、ふと思い付いた短編になるとは私自身思いもしませんでした。
楽しんで頂けたら嬉しいです!
よろしくお願い致します。
我が家のテーブルに並ぶ夕食は決まって、納豆、しじみの味噌汁、それと梅干し
ある日の夕飯時、3歳の息子が納豆をかき混ぜる手をとめて、箸と納豆のパックをゆっくりとテーブルに置いた。
そして、俯きながらこう一言。
「お父さん……、家って貧乏なの……?」
俺は飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「いやいや、そんなことはないと思うぞ。普通だよ。貧乏なんかじゃないさ。」
「じゃどうして、家の夕御飯にはお肉がないの? どうしていつも納豆がメインディッシュなの? やっぱり貧乏だからでしょ?」
ぎくっ!
俺の背中を冷や汗が流れていく。
そう、息子の想像通り家は貧乏だ。だから毎日こんな質素な夕御飯しか食べることができないのだ。
俺だって本当は、ハンバーグやステーキが食べたいさ……。
とはいえ、息子よ。貧乏だからお肉が出ないと決めつけるのは違うぞ。貧乏じゃなくとも、お肉が出ない家庭もある。
まぁ我が家は、紛れもなく貧乏だけどね。すまんな、息子よ。
だが正直に「そうです、貧乏です!」だなんて純粋で幼い息子に言えるわけもなく、俺は言い訳がましく言葉を並べた。
「えっと、ほら、あれだ。納豆は大豆で出来ていて、その大豆は畑のお肉と言われているんだぞ。だから、お肉がないってことはないんだ。そう、お肉はちゃんとあるんだぞ! だから決して貧乏ではない! 子どもがそんなこと心配してないで早くご飯食べなさい。」
大人げなく必死になりすぎてしまったけど、これで逃げ切れるかな……。
俺が胸の内で願っていると、息子の暗くしょげた表情がパァっと明るくなっていく。
よっしゃーー!! 俺の勝ちだ!
やはり子どもは子どもだな、単純で助かる。俺は息子に見えないように、テーブルの下で小さくガッツポーズをした。
一応言っとくが、嘘は言ってないぞ俺は。いや、さっき貧乏じゃないって嘘ついてたな俺。すまんな、息子よ。
「そうなんだ、納豆ってお肉だったんだね! 毎日お肉が出るってことは僕んちは貧乏じゃないんだね!」
その小さな胸に抱えていた不安感から解放されたことが心底嬉しかったのだろう。食事中だと言うのに、その場に勢い良く立ち上がり全身で喜びを表現していた。
これでひと安心だ。
「こらこら、行儀が悪いぞ。ちゃんと座りなさい。」
「はーい!」
息子は俺の指摘に明るい声で返事をしたあと、心配事など何もなかったかのようにテーブルにつき、箸と納豆を手に取って勢い良く納豆をかき混ぜた。
まったく、世話のかかる息子だよ。
とはいえ、世話がかかることも含めて子どもを愛するのが親心というものなのだろう。今日より明日、明日より明後日、明後日よりも2年後3年後。
時が過ぎるほどにその愛情は大きくなっていくのだと思う。
沢山納豆食べて元気に育ってくれよな。
息子の笑顔を見れて、なんだか俺まで元気になってきた。
よーし、また明日からも頑張るぞ! 貧乏隠し。
読んで頂きありがとうございました。
この作品を思い付いたのは、実際に私が夕御飯を食べている時で、その時のメニューというのが、作中の出だしに書かれているメニューと全く同じものでした。
そこで私は考えました。
今後私が結婚して、子どもが出来て、その子どもが物心ついたときに、この夕御飯をテーブルに出したら何て言われるんだろうと。
私は、まだこの世に存在していない私の子どもの気持ちになって考えてみたところ、ものの数秒である言葉を思い付いたのです。
「家って貧乏なの?」という言葉を。
そうして、この作品は完成しました。
少々長くなってしまいましたが、この辺であとがきを終わりたいと思います。
改めて、感謝の言葉を述べさせて頂きます。
ありがとうございました。