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散策

「ワォ」


外国人も納得の発音でユノは呟いた。


目の前に広がるのは、白かったであろう、黄ばみかかったシーツに埃が被ったベッドの柵。

もちろん、埃っぽい部屋と。

咳き込み苦しそうに横たわる人の姿だった。



「街に降りたいですか?」


リクトは怪訝な表情を出さずにユノの問に応えた。

ユノが外国人顔負けの発言の数時間前のことである。


柚乃がユノになってから何ヶ月かが過ぎた頃。

ユノは全く外に出ていない事に気づいたのだ。

屋敷には販売人と言われる物が、衣類、娯楽品を定期的に売りに来る。

庭もそれなりに広い為、散歩もそれなりに楽しめていたので、閉塞感がなく暫くの間、外に出ていない事にすら気付かなかったのだ。

でも、この屋敷があって他所から人を雇っているのだ。

この世界には、この屋敷しかないってことは絶対に無いだろう。

何ヶ月か住んでいるが、家族に顔を合わせたことが無い事から、家族は外にいる筈だ。

まさか自分に家族は居るのか居ないのか問うなんて馬鹿な事はできないが、家族が居ないのなら非力な少女一人、わがままに付き合う筋合いは正直ないだろう。

この世界の上下関係等は、書斎の本を読んでも解らなかったが。



リクトの問に、ただ頷いて紅茶を口に含む。


「馬車の準備を致します」


ユノの我儘はいつもの事なのか、柚乃の要望はすんなりと通った。

リクトが用意してくれた馬車に揺られる事、数刻。

馬車が止まった。街に着いたようだ。

御者がドアを開けてくれ馬車から降りる。


そこは栄えてるとも栄えていないとも何とも言えない風景だった。


「今夜泊まる宿を探してきます」


そういって、本日の同行者、フレナンは頭を下げてそそくさとこの場から消えていった。


御者も馬車を止めてくるとユノを置いて行ってしまう。


(いくら、私が我儘令嬢とは言え、街で一人にするか……?)


リクトに渡された財布が入った肩掛けカバンの紐をギュッと掴んで小さくため息を吐いた。



リクトは屋敷での仕事があるからと、付き人に用意されたのがフレナンなのだが、フレナンはユノが街に降りる時リクトが都合付かない時専用の付き人で、日帰りが出来ない距離の為、初めてフレナンと街に降りた時に、フレナンが宿をとっていないことに対しユノが凄い剣幕で怒り処刑されそうになった事を柚乃は知らないのだ。


女の子が一人で歩いても、問題ない治安なんだろと、ポジティブに捉えユノは散策を開始した。


花屋に、お菓子屋に、ガラス細工屋、綺麗な看板が立ち並ぶ通りもあれば、看板がなく市場みたいにシートの上に商品を並べている通りもある。

あっちは飲み屋街かな?夜になると光そうなネオン看板を横目に気になった建物を見つけユノは歩き出した。


そして冒頭に至る。

少しだけ街から上にあり、獣を道を歩き辿り着いたのは廃れ過ぎた病院であった。


こんな埃っぽい部屋じゃ、治るものも治らない。


「受診ですか?」

窓から覗いてたユノはびっくりして、少し肩を震わせ振り返った。

そこには如何にも医者と言わんばかりの姿。

白衣を羽織、それなりに小奇麗な男性が立っていた。


「窓は開けないの?」

男性の問には答えず、疑問符を口にする。


「開けませんよ。病気が街に広がってしまう」

男性は答えられなかった事に何の反応もせずにユノの問に答えた。

大人の反応である。


「移る病気なの?」

「さぁ?」

「医者じゃないの?」

「知らない病気は治せませんから」

そういうと男性は肩をすくめた。


立ち話もなんだからと、病院の隣にある小屋に通された。

こちらが診療所で、向こうは入院用と言った所だろうか。


周りを見渡していると、紅茶が出され座るように促される。

それなりの茶葉だ。ユノがどこかの令嬢だと理解してのもてなしだろう。


「どうしてこちらに?」

男性の言葉に何となく。と返す。

ユノの応えにそうですか。と返すと、それを飲んだらおかえりなさいと、男性は告げた。


「どんな病気なの?」

「咳き込むだけですよ。そのうち酷くなって心臓が止まる」

「咳き込むだけ?うつるの?」

「わかりません。ただ、確実に病人は増えています」

「熱は?タンは?」

「……熱は出ていないし、タンも吐いていない」

「体温計ではかっているの?」

「体温計…?あぁ、魔力で測っているよ」


まっ、魔力。ビックリして出しかけた声を留めた。

まさかの単語である。魔法が存在する世界なのか。

魔力で治せないの?とは聞かない。治せるならとっくに治していると言われるのは目に見えている。

しかし、なんていう病気だろう?結核を疑ったが熱がなければタンも絡んでいないないのなら、その線は薄いだろう。

黙ったユノを男性は怪訝に見つめていた。


カランカラン。低めの音が鳴り響く。

すみません。と元気のない声がドアの方から発せられた。どうやら患者さんのようだ。

男性にごちそうさまと。お礼を伝え、患者さんと入れ違いに外に出る。


その足で柚乃は入院用の建物へと、足を進めた。


持って来ていたタオルを水筒の水で少し湿らせ

二つ結びにしていた髪を解きヘアゴムをタオルにくくり簡易マスクを作る。

現代でコロナが流行った時にネットで見つけた情報だ。


「よし」

拳を握り柔道の押忍のポーズをし意気込んだ後、柚乃は病院の中へ足を踏み入れた。


「何してるんだ……?」

ホテルの予約が済み、面倒だと思いつつも合流しないと後が怖いことを理解しているフレナンが、そんなユノの姿を目にして困惑していた事を柚乃はしらない。


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