第7話 あの子の正体
さて、僕の恩人であり魔法少女である縛葉夏は、笑顔で僕を確保すると宣言した。
傍から見れば、葉夏は肉食動物に、僕は小動物に見えたかもしれない。
ぷるぷると僕は震えるのみである。
圧倒的な力を目にした人間はただただ、その力に屈するしかないのだということを僕は改めて知った。
しかし、僕は高校2年生。相手は…見た目だけでは中々年齢を当てることはできないが、年下であると本人が言っていたため、僕の方が年上ってことは自明の理である。明らかだ。
ならばこんなところで怯むわけにもいかないだろう。
ここはビシッと、ズバッと年上であることの威厳を見せなくては。
スーハ―と息を吸い込み、吐いて落ち着かせる。
大丈夫。相手はただの魔法少女だ。
僕の身の丈よりも大きいハンマーを抱えていても、空を飛ぶことが出来ても、なんか機関に所属しているとかいってもただの魔法少女じゃないか。
こっちは年上だぞ。何にも恐れる必要はない。
こんなところで年功序列のお世話になるとは思っていなかった。
高校ではなんで一個年上なだけで、こんなに偉そうなんだろうと先輩を敵視していたが、なんてことはない。
年上は偉いのだ。
一年間余計に生きているだけで、そりゃあ偉い。
頑張って生きているのだから、年下位には偉そうにしたいものだ。
普段はこんなこと絶対に言わないけど、言わせてもらおう。
年功序列、最高!
そうだ、僕は葉夏よりも年上だ。
ならば僕を確保するなんて物騒なことを、出来るはずもない。
というか第一、犯罪だ。
罪状なんてしらないけど誘拐罪的な、そんなやつ。
ああ、何だ大丈夫じゃないか。
彼女が僕を傷つける理由なんてないのだし、安心だ。
僕は葉夏を見つめて、胸を張って、言った。
「すいません…許してください」
「…?大丈夫ですよ。では来てください!」
僕は自分のことを天才とも秀才とも思ってはいないけれど、それでも平均ではあると自負していた。
しかし今回僕に想定できなかったことが二つある。
一つは、葉夏がこれから確保という誘拐行為を行おうとし、たとえそれが犯罪だったとしても今僕と彼女は同じ屋根の下にいるわけで、密室にいるわけである。
よってこの犯罪を見届けるひとは存在しない。
通報されることがなければ、この行為は犯罪にはならない。
そしてもう一つ。
縛葉夏という魔法少女は、一度すべきと思ったことは最後まで成し遂げる、そんな一途な女の子であったことである。
こうして僕は葉夏の取り出した不思議な黒い箱によって、この僕の家から姿を消すこととなった。
目を開けるとそこはトンネルのような場所だった。
どうやらずっと通路が続いているようである。
コンクリートによって一面おおわれている壁は無機質な印象を受ける。
「どうですか?気分とか悪くありませんか?」
葉夏が心配そうに僕に聞いてきた。
少しぼうっとしていたらしい。
「大丈夫だよ。ところでここは?」
「ここは機関施設に続く通路です。直接機関に入ることはセキュリティ上出来ませんので。もう少し歩くことになりますが、いいですか?」
「ああ。なあ時間がかかるんだったら、教えてくれないか?僕がここにきた意味を」
葉夏は少しだけ微笑んで歩き出し始めた。
自分もそれについていく。
「はい、いいですよ。ここなら他の誰かに聞かれることもありませんしね……まず何から話しましょうか。そうですね、私が所属している機関についてお教えしますね。正式な名前は先ほども言いましたが異生物根絶機関『グリース』といいます。あの公園で出会った生物が別世界から来たと言いましたよね?この世界は一つだけではないんです。沢山の世界があり、重なり合っている。時々地球上には存在しないような生物が、この世界に入り込んでしまうんです。この機関の目的は危険なマヤカシを地球上から消滅させること、なんです」
……薄々思っていたが、あの公園で遭遇した怪物、確かにアレは常軌を逸していた。少なくともこの地球にいて良いものじゃない。
黒い蛇のような触手を何本も持ち、タールのようにドロドロと蠢いていた。
思い出すだけで、冷や汗がでてくる。
あの時は巨大なハンマーを使って、怪物を殺していたが、あれも機関からの支給されたものって言ってたような気がする。
こんな組織があるなんて欠片も知りはしなかったが、この組織があるからこそ僕は命を救われたといっても過言ではない。
巻きこまれただけな気もするが。
「そして今回、宗之介さんを機関のほうから確保せよと依頼がありました。」
「それは、僕があの公園で怪物と出会ったせいなのか?」
「はい。それもあります。出来れば一般人を巻き込みたくないのが機関の意向なので。しかしそれだけではありません。宗之介さんが遭遇した宇宙人、羽衣愛についての情報収集の意味もあります」
「…宇宙人?」
「そうです。外宇宙来訪人。未知なる星からこの地球へと来訪した、新しい生命体。それがあなたが出会った人物の正体です」