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第2話 化け物無様バトル

少女に駆け寄り、様子を見る。

少女は呻き声をあげているが気絶はしていない。

案外直ぐにでも立ち上がることは出来るかもしれない。

時間を稼がないと、少女が体勢を整えられる時間を。

少女の前に立つ。化け物に相対する。

直ぐに逃げろと、何をしているんだと頭の何処で思っていた。だけど、もう逃げられない。


最早手遅れで終わっていた問題だったから。


化け物、と表現したそれはグジュグジュと音を立てていた。

黒い蛇が何匹も絡まり合い、形づくっているようだった。

自分の背丈より更に大きいそれはゆらゆらと揺れながらこちらの様子を見ているようだった。気持ち悪い、と思わず口に出しそうになる。

僕は相手の動きをひたすら見ていた。どう動くかすら予想のつかないものだけど、それでも何かヒントを見つけるために。

化け物と相対している時間はまるで何時間も経ったかのように思えた。実際は十秒程度だと思うが。

月の光はまだ、僕らを強く照らしていた。動き出したのは化け物だった。

黒い体をズルリと動かしてこちらに向かってくる。どうやら少女ではなく、僕を狙っているらしい。

それは好都合であり、不幸でもあったが。

直ぐに僕は化け物とすれ違うように斜め前に走り出す。

がむしゃらにひたすらに、手足を動かして、走り出した。

先ずは少女から遠ざけるのが先決であった。


そして次は...何もプランなど無かった。

元々無茶な選択だったから、何かを思い付くわけなど無かった。

起死回生のアイデアなど、ただの平凡な僕には思い付かなかったのだ。

今にも追い付かれそうだし、真っ直ぐ逃げているだけじゃ、直ぐに公園の柵にでも追い詰められるだろう。

どうする、どうすると悩んでいるうちに公園と路地を仕切っている柵が見えてきた。

ああ嫌だ、あんな化け物から逃げ惑うなんて。どうしてこうなったんだと自分を責め立ててしまう。それでも、やるしかない。

僕は足に力を込め、くるりと体をターンさせる。もう一度化け物に向き合う。このままならぶつかってしまうだろう。

少女の状態を見るに、この勢いのついた状態だったら最悪死ぬかもしれなかった。

死、現実感の無い言葉が脳裏に浮かぶ。一番遠いように感じて、案外近くにあるのかもしれない。死は。

でも、まだ死んではいられない。こんな所で僕は、死ぬわけにはいかない。化け物が突っ込んでくる。

思ったよりもそれは速いスピードで思わず眼を瞑りたくなる。ぶつかればひとたまりもない。

化け物がこちらに向かってくると同時に、僕は前に向かって飛び込んだ。化け物は僕に当たることなく、そのまま公園の柵へと飛び込んでいった。

着地は前転して衝撃を和らげたがそれでも痛い。ぎりぎり避けたお陰で化け物は柵にぶつかったようだった。

これで化け物が怯めば上々だったが、そうは上手くいかない。化け物はぶつかった衝撃のまま、その勢いのまま、スーパーボールの様に跳ね返ってきたのだ。


予想外だった。予定外だった。

何処で上手くいくんじゃないかと思っていた僕を裏切るものだったのだ。

予想外で、想定外なことに僕は反応することができなかった。

衝撃が、体を襲う。全身を壁にでも打ち付けられたようで、目の前が明滅した。チカチカと白黒に。自分が化け物から吹っ飛ばされたことを気づくのに時間がかかる程、僕は痛みを感じていた。

僕は無様にも無残にも地面に伏して、顔を動かすことしか出来なかった。

体が動かない。化け物は未だ健在の様でグジュグジュと気味悪い音を発していた。こちらを見ているようで観察しているようだった。

はは、と乾いた笑いが口から出てくる。体は今までで一番熱いけれど、頭は今までで一番冷めていた。

何処か、他人事のように感じていた。

現実を受け入れようとして、しかし受け入れていなかった。


多分、多分だけれど、僕は思ってしまったんだ。もしかして自分は上手くやれるんじゃないかと。この非現実な現実にまるで物語みたいな現実に、僕は希望を持っていたんだ。何か変われるんじゃないかと。

そして、僕は外に出た。少女と出会い、化け物から逃げて、この様だ。これが夢なら良かったけれど、この痛みは確かに現実だった。


化け物はゆっくりと近づいてくる。今まで僕の全力疾走についてくる程、早く動ける癖に、何故かゆっくりと。

僕は見ていることしかできない。

体が熱くて、グリグリと押し潰されているようで、体が動かない。化け物は僕のすぐ側に這いずってきた。

目の前はもう化け物の体しか見えない。

ああ、そうか。もう駄目なのか。どうしてこうなるのだろうか。

どうして、どうして。後悔ばかりだった。何故を繰り返していた。外に出なければ。公園に入らなければ。少女を、助けなければ。僕は日常を過ごせたのだろう。


でも、結局は自業自得だから。自分で選んだのだから。


僕はこれで良かった。こんな結末でも良かったのだ。

僕は眼を閉じた。痛みから逃れようとしているのか、体の感覚が無くなっていく。まるで夢を見ているかのように。

案外、これも夢なのかもしれない。都合が良すぎるけど、そうであってほしいと思っていた。

グジュグジュと化け物が蠢く音が聞こえる。そして、化け物は僕を────何かが潰れた音がした。

上から大きな石でも落としたかのような。

それは僕の近くでなった音であり、僕は思わず眼を開いた。

化け物の体の半分、上半分が無くなっていた。

それは綺麗に潰されていて、もはや原型すら分からない程だ。

その原因は、要因は、直ぐに分かることになった。


あの凶器なハンマーを抱えた少女が、こちらに向かっていた。

月光に照らされたハンマー少女はまるで何かのヒーローの様で、それか悪役みたいで──僕は、気を失った。

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