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第1話 ハンマー少女との邂逅

異世界、という言葉がある。自分がいる世界とは異なる世界を表すのだろうが、ふと疑問に思うこともあるのだ。

何を持って、異世界だと決めつけるのか、である。

決めつけるなんて言うとまるで悪いことの様に聞こえるが、まあ悪いことなのだ。決めつけるなんて。

言い方を変えるなら、受け入れるであろう。

どうやって何を持って、異世界だと受け入れるのか。

僕はそれがどうしても気になって仕方がなかった。もどかしかった。

勿論、異世界なんてものを気にするまでに僕は少々の事情、切欠があった。

まずはその事から話すのが良いのかもしれない。

異世界とは何なのか疑問に思った切欠を。


夏。といっても、まだ七月に入ったばかり。梅雨が終わり、爽やかな季節へと移り変わっていく。しかし僕がこうやって外に出ている時間はすっかり夜なのでまだ肌寒いくらいである。

こんな夜にしかも真夜中に僕はたった一人でコツコツと歩いていた。

別に何かに悩んでいた訳ではない。一世一代の大勝負があった訳でもない。喧嘩とか恋愛とかそういう俗にいう『悩み』がその時、僕には無かった。

具体的な悩みは無いけれど、ただただ漠然と、僕はこれで良いのかという思いだけがあったのだ。

今思えばこれも立派な俗にいう『悩み』だろうし、なんてことのないものなんだろう。ありふれた、満ち溢れた思いだったのだ。

恥ずかしい。思い出したくないものだ。自分は変わりたいと思いながら、それまで何もしなかったのだから。変わろうと行動しなかったのだから。

それでもその時の僕は、今から3ヶ月前の僕は真剣に悩んでいた。

他に気にすることなんて沢山あるだろうに、それだけを悩んでいた。

そうして僕は何故か、どういう訳か外に出た。特に目的があるわけでもなく、ふらっと。自宅から一本に続く長い道路を、詳しく言えば横にある歩道をふらふら歩いていた。

此処で誰か人に会えば良かったのだ。そうすれば僕だって少しは変わったのだ。挨拶でもされれば、我にかえって、何で僕はふらふらと歩いているんだと恥ずかしくなって自宅へとすごすごと帰っていただろう。

断言できる。でも僕は誰にも会わなかった。運の悪いことに。

歩道は心許ない街頭の光と月の光に照らされていた。空を見上げてみれば月だけが静かに色づいていた。綺麗だった。

満月では無いけれど、どちらかと言えば三日月に近かったけれど、吸い込まれそうなそんな月だった。

自分の足音だけが響いていた。コツコツと、一定のリズムを持って。そんな静かな夜だったから、気づいたのだ。気づいてしまったのだ。回避できる時は何度だってあった。まず僕が外にでていなれば良かった。

雨でも降っていればまず外には行かない。人に出会っていれば我に返っただろうし、外で工事でもやっていたなら僕はこんなことにはならなかったんだろう。

ならなかった、はずだ。

最初に僕が悩んでいなければ、変わろうと何か行動していれば、僕は気づかなかった。分からなかった。

小さな音がしたのだ。何かがぶつかるようなそんな音が。ただ、それはとても、とても小さな音だったし、気のせいと言われればその通りと納得してしまうようなそんな音だった。


空虚な夜に気づいたたった一つの変化だったから、僕はふらふらと或いはずるずるとその音がする方に寄せられていったのだ。

何となく疲れて、何となく恐れて、変化を求めて僕は狭い路地に入っていってしまったのだ。

奥に進んでいけば、だんだんと音がはっきりと聞こえてくる。

路地を歩いていく。自分の家からそこまで離れていないのに、まるで遠い場所に来たかの様に感じていた。別に自分は幽霊を信じている訳でもない。

ホラーものが特別苦手という訳でもないのに。僕は怯えていた。恐れていた。

でも、好奇心が、執着心が僕を歩かせていた。狭い路地から何かの入り口を見つける。入り口の横には石が置いてあり、どうやら公園のようだった。僕は入り口に向かい、歩き出した。

そして、音が聞こえた。さっきよりも大きくはっきりと。そう。それは、ぶつかるというより、ぶつけると言うべきだった。ぶん殴ると言うべきだった。

公園に入ってみればそこは走り回ることができそうなほど、大きい公園だった。幾つか遊具が置いてあり、ベンチなどもある。ここまでなら普通の、何処にでもある公園である。ある一点を除けば。


「!...あなたは誰ですか?」


少女がいた。公園の中央に一人で立っている。今が真夜中ということを除けば、何処にでもいる女の子だ。フード付きのトレーナー、短パンの服装であり、街中にいても違和感は無いだろう。何処にでもある公園に、何処にでもいる女の子だ。その右肩に、巨大なハンマーを抱えていなければ。

巨大なハンマー、なんて表現をしたけれど、ハンマーなんてかわいいものではなくそれは凶器だった。驚くほど、凶器だった。

一般的高校生である僕は普段ハンマーなんてお目にかかることなんて無い。あったとしてもそれは図画工作の授業などであり、手に収まるようなかわいいものだった。比べて少女のハンマーはどうだろうか。

明らかに人一人分より大きくどす黒い。それだけ大きいのならば重量だってかなりものだろう。しかし少女は軽々と何てことのないように持ち上げているのだった。それは恐怖であり、狂気を感じるものであった。

まず現実で経験することのないそんな、現実である。

そんな恐怖で、凶器な少女は足に力を込めたと思うと一っ飛びで後ろに下がり、僕から距離を取るのだった。


「何でこんな所に人が...今まで来たことなんて無かったのに!」


どうやら少女は動揺しているようだった。こちらには一切非は無いというのに謝りたくなる様な動揺っぷりである。

こんな所にいておかしいのは少女の方であり、まだ一般的高校生である僕が公園にいた方が自然であろう。

しかし、凶器を持っている相手に上から接するなどできやしないので、僕は自然と謝まってしまうのだった。


「いいえ、私の方が悪いですけど...」


少女は少し警戒を解いたようで少女の強ばっていた肩は力が抜けていた。まだ警戒を解くには早いと思う。僕がどんなやつかも分かっていないのに。意外と年齢相応かもしれない。


「でも、此処は危ないですよ。早く逃げた方が!また襲ってくるかも知れないですし!」


少女は焦った様子でそう話してくる。危ないのは目の前にいる奴じゃないかと思ったが、忠告は守らねばならない。

言われなくても既に体は少女から離れようとしていた。今夜は月の光が強い。吸い込まれそうな光だし僕らをよく照らしてくれていた。だからこそ今まで凶器なハンマーが、狂気な少女が見えていたのだ。月の光は様々なものを照らす。

だから、だからこそ、見えてしまったのだ。少女の後ろから這い寄るその化け物に。

回避できる時は何度だってあった。少女と話さなければ良かったのに。さっさと公園をでれば良かったのに。化け物を見つけなければ良かったのに。そう、回避できる時は何度だってあった。

でも。僕は少女に向かって叫んだ。その化け物の存在を伝えてしまった。少女は直ぐ様振り向きハンマーを構えた。きっとあの凶器によって化け物は倒されるのだろう。そんな確信が僕にはあった。

だが、そんなものは直ぐにぶち壊される。化け物はその黒い体を伸ばしたかと思えば少女の体に突進した。予想していなかったのか、少女は防御出来ず、吹っ飛ばされる。こちらに向かって。逃げようとすれば何時でも出来た。出口に向かって全力疾走すれば逃げられるかもしれない。きっと。

もう一度言う、僕は一般的高校生である。だけど、その時の僕は確かに悩んでいた。このままでいいのかと悩んでいた。些細な悩みだし、笑い飛ばされる、何てことのないものだろう。だが、僕は変化を望んでいた。望んでいたからこそ僕は少女に駆け寄ったのだ。残念なことに、悲しいことに。

僕は変わっていく。この出来事を、回避出来ずに、回避せずに。それでも僕はこの事件を反省はしても後悔はしていない。これで良かったのだ。というかそう思っていないとやってられない。本当は感じているその後悔に押し潰されそうだから。

僕は変わっていく。少しずつ、確実に。

それでも変わるのは、今では無いのだろう。

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