パパからの手紙
二話目です。
私を置いて居なくなってから一切音沙汰が無かったパパからの手紙だった。
手渡してくれたおばぁは若干泣きそうな顔になっている。おばぁのこんな顔は見た事がない。
ここでおばぁについて紹介したい。
背筋が私より伸びてて、スラッとしたボディライン。
スキニージーンズを好み、スーパーへの買い物はハーレーのFLHで出掛ける。
後ろ姿だけだったら私よりモテる今年73歳になる妖怪ババァだ。
……前からでもモテるかもしれない。
3年前におじぃが2000万程の借金がある事が分かった時にも爆笑しながら「テメェジジィ!その無駄な筋肉を活かす時が来たじゃねぇか!!老い先短けぇんだからロシアでカニ漁でもしてさっさと稼いでこい!!」とおじぃに蹴りを入れていた、あのおばぁが落ち込んでいるのだ。
ちなみに2000万の借金はおじぃの海の肉体労働によって完済したらしい。
その当時は海賊が全滅したとか、数日前まで大漁だったマグロがパタリと姿を消したとか、ポセイドン現る!!とか、やたら海のニュースが多かったが気にしない事にした。
話は戻り…
おばぁは言葉を選ぶように話し出す。
「楓…ごめんな。こっちに来た頃は、『ママは何処行ったの?』とか『パパを探すの!!』とか言ってたよなぁ。
でも最近は両親の事も余り口にしなくなって、置いていかれた事も乗り越えられたと思ってたんだけどな。アタシとしてもぶり返すようで申し訳ないんだよ」
『うん。大丈夫…』
(……乗り越えられてなんかいない。ずっと迎えに来るのを信じて待っているし、未だにあの頃の夢だって見る。口には出さないけど。)
「あたしゃアンタのばぁちゃんだけど、あのバカの親でもあるんだよ。せめてあのバカの些細なお願い位は聞いてあげないとね。」
『パパのお願い?』
「アンタのママの事だよ。あの馬鹿それなりに調べたらしいんだよ。ただね、調べれば調べる程、ぶっ飛んだ話だからさ、アンタが物の分別の付く歳まで黙っててくれってよ。取り敢えずその手紙を読みな。長い手紙だ。あたしゃ晩飯作って来るから、それの話は晩飯食いながらしよう。」
『おばぁ…ありがとね。』
台所へ向かうおばぁに話すと、
「せめてバァちゃんって呼びな!!!!!」
さっきの雰囲気は何だったのかって位、いつものツッコミを食い気味で入れてくる。ホントありがと。おばぁ。
そして、手元に残った手紙。
『楓へ』
無駄にでかくて勢いのある文字だ。
この歳だから分かる。
パパは結構大雑把な性格だったようだ。
『楓、デカくなったか?まだ6歳だったお前の側に居てあげられなくてすまなかった。
この手紙はオバァにお前を預ける少し前に書いている。
お前の寝顔を見ながらな。
まだ覚えているか?ママが居なくなった時の話だ。
結論から言おう。ママはお前を捨てたんじゃ無い。
連れ去られたんだ。
俺はママを探す為に色々と調べた。
ここからは突然話されても信じられない内容だが、事実だ。そして、今後お前にも何かあるかもしれない。念の為にしっかりと読んでくれ。
まず、ママの戸籍が消えていた。書類上にはなるがママは日本から抹消されていたんだ。もちろん役所も警察も取り合ってくれない。
そして、俺に入籍した履歴はなく、お前は俺の子という登録のみ。完全に異常な事だ。普通ではありえない。
過去に同じような事例は見つからなかった。俺はこの事からママは何かに巻き込まれたと確信した。
ここから俺は徹底的にママを探す動きをしたんだ。
ただ、個人に出来る事なんて僅かだ。しばらくしたら
手を尽くし切ってしまったんだ。
そんなある日に俺の前に一人の男が現れてこう言ったんだ。「お前の妻については諦めろ。お前には何も出来ない。この金でこの件から目を背けて生きろ」ってな。
頭にきてな、
俺はその男の胸ぐら掴んでブン殴ってやったんだ。こいつを締め上げれば何か分かるかもしれないと思ってな。
一か八かだったけど、どうやら成功だったらしい。
そいつを殴った感触がおかしかったんだ。何かがバリンって割れるような感触のあとに、やたら頑丈で重たい人間を殴るような感じだ。
そして殴った相手は飛んでいって、煙を残して消えた。
その煙が一瞬だけ模様を描いたんだ。
その模様を色々な文献から追ってみると、ママの居場所に目処が立ったんだ。ママが居るのは俺たちが生きている世界とは別の世界だ。
すなわち異世界だ。』