個人演習【後編】
「おっと……始め!!!!」
演習開始の笛が鳴り響いた途端、頭上から巨大な塊が降ってきた
「は!?」
慌てて体を捻り、直撃をかわす
右足を大きく引き寄せつつ左手を軸に回避すると、さっきまで自分が立っていた位置に身長の3倍はあろうかというような大槌が轟音をたてて落下した
崩れた姿勢のまま上を見上げるが、頭上には不思議と誰もいなかった
「ふざけやがって……!!!」
「ほらほら……
よそ見してたらしてたらいけませんよ!」
再び感じる巨大な塊
今度は左に避けようと体を捻るが見破られていたらしく、背中に大槌が直撃した
「ガハッッ!!!!!」
「右の次は左とは……単細胞にも程がありますね
全く手応えがないですよ、セ・ン・パ・イ♡」
声は聞こえるが姿は見えない
相手の情報があまりにも少なすぎる
「(……1年でこの威力って事は相当前に目覚めたか、あるいは天才的センスのある狂戦士か……
もう1つの可能性もあるが……ただ押されてるのは気に食わねえ)」
「おいクソ野郎……いい加減姿見せろや……その偏屈なツラに一発ぶち込んでやるからよ……」
「お断り致します」
また空間が割れる音がする
空間の中に武器を召喚出来るインフェリアなんていたら俺様の耳に入らない訳はないし
第一姿を見せない所も引っかかる
今考えるべきは……
体の力を抜き、隙だらけの棒立ちになる
さあ、これに乗ってくるかどうか……
「降参ですか?
降参するなら最初に言った通り、僕にお手をしてくださいよぉ!!!!先輩!」
隙を見せた俺様を降伏の証と思ったのか、大槌が振りおろされる
直撃寸前、大槌の前でニヤリと笑う顔が見えた
「ようこそ、俺様のショーへ♡♡」
凄まじい轟音の後に直撃したはずの大槌が鈍い音をたてて止まる
「なっ!!?」
ギリギリと軋む音がしたと同時に大槌の根元が砕け散った
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」
砕けた大槌が消えた瞬間に木槌を持った少年が後方へ吹っ飛んだ
「あああ……なんで……何でバレたの……?」
少年は衝撃によるダメージで動く事が出来ないが、大舘が正体を見破った事が信じられなかった
「お前の腕、見てみろよ」
少年が恐る恐る右腕を見ると、さっきまで付いていなかったはずの手錠が何重にも重ねて付いていた
「召喚にはインターバルが必要ってのは誰でも知っている事だ
なのにお前はインターバルを感じさせない速さで大槌を召喚していた
初めはとんでもない天才かと思ったがよ……大槌に手錠仕掛けてみればすぐに分かった
大層な着ぐるみだなぁ、少年クン♡♡」
「ひっ……」
「面白いモン見せてもらっていっぱいご褒美くれたんだもんな
ちゃーんと『お礼』しないと失礼だもんなぁ……」
喋りながら右足首に意識を集中させる
姿も見えた事だし、ここからが一番楽しい所だ
「俺様を大興奮させるくらい良い絶叫と痛みのプレゼントがないと許さないぜ?」
今日も大舘は強く、変態だった……