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最後の明日  作者: クソクラエス
1/3

 目を覚ますと私は病室にいた。

 わざわざ言うまでもないと思うかもかもしれないが、私にはこの病室に来るまでの記憶がないのだ。つまり何故自分がここにいるのかが分からなかった。

 何か情報を得ないと。そう思って体を起こしたとき、男の声が耳に触った。

「大丈夫?」

 その声の主は私の隣にいた。

 丸眼鏡に黒髭のその男は、私を見て心配そうな顔をしていた。こんな時はうんとかすんとか言うのが普通の反応なのだが、私にはそれができなかった。

 なぜか。それは私がその男を知らなかったから。

「誰?」

 長く使っていなかった喉からは、掠れた声しか出なかった。

「そうか、僕のことは……」

 彼の顔が少し曇った。

「なら、自分の名前は言えるかい?」

 男は急に私の名前を聞いてきた。

 知らない男に名前を言うなどしたくはないが、彼にはなぜなのか初めて会うような感じはしなかった。

 私は自分の名前を………………思い出せない。自分の名前が思い出せない。

「あれ……?あれ…………?」

 頭の中が真っ白になり、冷や汗が背中をつたう。

「ああ、無理に思い出さなくていいんだ」

 彼の言葉で私は思考を制止させた。

「落ち着いて、落ち着いて」

 彼の手が私の背中を優しく撫でてくれた。彼のその手の感触に私はどこか懐かしさを感じる。

「ほら、深呼吸して」

 彼は落ち着いた声音で私にささやいた。

 胸に手を当て鼻から大きく息を吸い込み、そして吐く。私は言われたとおりに深呼吸をした。

 少し経って何とか落ち着くことができたが、依然として自分の名前を思い出すことはできなかった。

「はい、水」

 男がコップを差し出してくれた。私はそれを受け取って飲んだ。

 潤いを取り戻した喉からは、ちゃんと声を出すことはできた。

「あの、ここはどこなのですか?」

 私は男に聞いた。

「ここは見ての通りただの病院。そしてその一室だよ」

「そうなんですか。それと何で私は病院にいるのですか?」

「そうだね。理由としては君は事故に遭った。それだけ」

「事故?」

 覚えのない出来事に私は首を傾げた。

「覚えてないか。まあ、その話はまた後でしてあげるから」

 男はそう言って席から立ち上がり、窓を開けた。窓からは夕日の光が入ってきた。

「でもね、そんなことより君に話さないといけないことがある」

 男の紅に染まった横顔は、先ほどよりもずっと神妙になった。瞬間突風が吹き、カーテンが大きく舞う。

「君の両親は事故で亡くなった」

 男はそう告げると横目で私を見た。

「まあ、君は両親のことも忘れてしまっているだろうから」

「はい……」

 彼の言うとおり、私は両親の顔さえも忘れてしまっていた。忘れるというよりかは思い出せないの方が近いかもしれない。そんな両親が亡くなったと言われても、悲しみようがない。

「すみません、実感がなくて……」

「……そうだよね」

 彼はそれを理解していてくれた。

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