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冒険者たち

 その日、(もと)魔王城の謁見の間に集まった面々は沈痛な面持(おもも)ちで会議を始めた。


「よし。まずは正式に発効されたGクラス冒険者とやらの権限を確認するぞ」


 言ったのは帝国八番姫 兼、ギヨ専用(・・・・)魔道戦艦艦長ことフルシェ・シャペルであった。


 ギヨメルゼートとアゼルパインからジオル帝国に提示された条件は至ってシンプルである。


・皇帝はGクラス冒険者の言うことに逆らわない。

・帝国はGクラス冒険者の要望に対して全力で応える。

・Gクラス冒険者は、帝国で定められたありとあらゆる法律に縛られない。

 

 シンプル・イズ・ワースト。

 普通の者が見たならば正気を疑うような条件である。


「……冒険者とはいったいなんなのだ?」


 呻くように言ったのはかつての魔王筆頭参謀『白の海魔』フリューゲル。

 魔王城が制圧されたときにギヨメルゼートの傘下に加わっていたらしい。


(わらわ)に聞いてくれるな」


 フルシェは半眼で答えた。

 『(けわしきをおかす者』と書いて冒険者。

 そういう意味で連中は真の冒険者であるに違いない。いまもどこかの秘境に出かけているのだし。


「天災のことを冒険者って呼ぶのやめてくれんか?」


 死んだ目で言ったのは魔王パルパ。

 北にいる大魔王とやらの配下であったが邪竜王に鞍替えしたらしい。というよりは「させられた」というのが正しいのであろうが。


「だから! 妾に言っても意味がないといっておろう! 兄上! 兄上も何か言ってくだされ!」


 フルシェは新たに城主となったヴルムト・ミレチェンカに発言を求めた。

 だが、ヴルムトは遠い目で一言だけ。

 

「レアメアは今日も可愛いな」


「まあ、ヴルムト様ったら! ぽっ」


 正式に妃となったレアメアと手をつなぐその姿は、なんというかラブラブではあるのだが、議会の場ですることではなかろう。

 なお、皇族と獣人との婚姻に関してジオル2世や帝国貴族は難色をしめしたが、ギヨメルゼートが黙らせた。


 君臨すれども統治せず。だが、無理難題は腕力で押し通す。

 まさに暴君の(かがみ)である。

 

 代わりと言ってはなんだが、ヴルムトは元魔王城を拠点として、かつて滅んだ国の復興を押し付けられたのだった。

 簡単に言うと左遷である。


「まあまあ、みなさん外を見てください。とても活気のある光景じゃないですか」


 言ってレアメアが示した先は城下町。

 左遷であったはずだが、亡国の復興と聞いてどこからともなく集まった人々が、トンテンカンと街を築きつつあった。


 集まっているのは難民として各国で生活していた亡国の人間だけではない。

 レアメアが妃となったと聞いてやってきた兎人(ラールシェント)。フリューゲルが呼んだ海魔たち。北の大地からあぶれた魔族。兎人(ラールシェント)の近縁種である犬人(バウループ)


 その他もろもろ、ありとあらゆる人種の見本市。


 普通であれば人種の対立も起こりそうなもの。と言うか実際、深刻な対立が勃発(ぼっぱつ)した。

 獣人と人間の間に刻み込まれた敵対感情は(魔道戦艦に乗っていた連中はともかく)そう簡単に晴れるものではなく、海魔と魔族、そして未知の存在と出会った人間たちの拒否感情も相当なものであったのだ。


 もちろん、亡国の国民の中には帝国の人間が王となるのが気に食わない者もいるわけで。


 建国宣言がされた当初は、3カ月もすれば体制が崩壊するだろうと予測されていたくらいだった。が、


「……平和だなぁ」


 ヴルムトは感慨深くつぶやいた。


 争いを主導していた連中はギヨメルゼートの「貴様の顔が気に食わん」の実力行使で(つゆ)と消えた。


 単純明快。法も権力もない、感情だけの絶対暴力。

 史上まれに見る圧政&悪政がこの国を支配しているのである。


 だが、


「みなさん楽しそうで何よりです」


 レアメアは嬉しそうに城下町の人々の顔を見た。


 『(けわしきをおかす者』と書いて冒険者。

 新興国を自分たちの手で創ろう、という難しい(ぎょう)に挑まんとする者たち。

 その顔にあるのは圧政に苦しむ表情ではなく、自分たちの力を試そうという挑戦者の心意気。


 そういう意味で、まさしくこの国は『冒険者の国』であった。


「平和はいいのですが、兄上……そろそろアゼル殿とギヨ殿が戻ってこられる時期なのでは?」


 フルシェが尋ねると同時、少し遠くで爆発音が聞こえた。


「ああ……そうだった」


 場にいる全員がため息をついた。連中が冒険から帰ってきたのだ。

 城の外から聞こえる爆発音に混じって、怒鳴り声が聞こえる。


「アゼェェェル!! 今日という今日は許さん! そこに直れ!」


「なんだよ! おっぱいもんだくらいでそんなに怒ることないだろう!? だいたい、お前、つるぺったんじゃんか! ――隙あり! おっぱいタッチ!」


「ぶち殺すっ!」


 ちゅどぉぉぉぉん!


 今日も青空の下で爆発音がこだまする。

 まずは、ここまで読んでくださった皆様には感謝の意を。

 もともと活動報告で中編と書いていた通り、『涙拭けよ』は予定通りにここで完結となります。

 

 &次作を投稿し始めています。

 『Q.ガチャから武器が出ないのでモンスターが倒せないのですが。 A.そこのチョコレートで殴り倒してください。 ~最強! レア運不要の異世界攻略パーフェクトガチャガイド~』

(↓のリンクからどうぞ)

 こちらは衣食住が全部ガチャで、人類みんな冒険者というちょっと変わった世界のお話です。


 こちらはいったん10万文字くらいを目標に、ひと段落するようにしたいと思っています。

 気軽に笑ってお読みいただけると幸いです。


 (ネタバレを含むあとがきは活動報告をご覧ください)

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