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ファンシーもふもふ教徒

 アゼルパインがギヨメルゼートを伴って、神殿の最奥の部屋から出て出口方向に向かうと、さっそくなんかよくわからんものがあった。


(100年以上は経ったのかね?)


 周囲を見回すと、さきほどの部屋と同じく、ありとあらゆる部分が朽ち果てており、天井には青空が見える。


 アゼルパインたちが足を踏み入れたのは礼拝室だ。

 と言っても神に祈るためのものではなく、地面に頭をさすりつけて邪竜王様に忠誠をちかうための場所であるが。


 その朽ち果てた壁面に、比較的新しい部分があった。


「なんだこりゃ? 壁画か?」


「『勇者と邪竜王の死闘決着の場』と記載されておるな」


 どうやらこの神殿、観光地になっているらしかった。

 筋肉むきむきのでっかい男と、それ以上にでっかいドラゴンが干戈(かんか)(まじ)えている様子の描かれた、色褪せた壁画である。


「なかなか(うるわ)しくできているではないか。人か竜、どちらが作ったのかはしらんが、なかなかよい」


 麗しいんだろうか?

 竜人の感性はよくわからんが、ギヨメルゼートは大変気に入ったらしい。


 だが目下の問題としては、


「それはそうとして、それよりもこいつらはなんだ?」


 アゼルパインが「こいつら」と指さしたのは、目の前にいる老若男女100人ほどの人? であった。

 

 疑問符をつけたのは、頭の上にウサギの耳をつけた連中を人と言っていいのか、という疑問からだ。

 この世界の人種はデリケートなのである。例えば竜人にトカゲ野郎って言うとめっちゃ怒るし。

 

 ウサ耳集団のほうも、まさか神殿の奥から人が現れると思っていなかった様子ですっごいびっくりしてる。


「なんかのコスプレかな?」

 

 アゼルパインはその中をつかつかと歩いて進むと、100人くらいいるなかで一番偉そうなおっさんの耳をひょいっとつまんで引っ張った。


「あいたたた! 何をする!? 貴様ら、いったいどこから現れた!?」

 

 怒られた。どうやらつけ耳ではないらしい。


 男の年齢は50くらい。

 粗末ではあるが、実用的な鉄の鎧に身を包んだ厳めしい顔をした筋肉マッチョ。

 刻み込まれた皺や日焼けから、歴戦の勇士であるのは見て取れる。

 が、その頭の上にウサギを思わせる可愛らしい耳がぴょこんとついているのである。

 ひっぱらない者がこの世にいようか。いや、いまい。

 

「アゼルよ、こいつらは何だ? ファンシーもふもふ教徒(きょうと)か何かか?」


「お前にわからんものがオレにわかるわけないだろ? 見た感じ、観光客じゃないみたいだけど」


 アゼルパインとギヨメルゼート不思議がっていると、ウサ耳のおっさんは腰に佩いた剣を抜いた。


「ええい。何をわけのわからぬことを!? さては貴様、刺客だな。者どもかかれかかれ!」


「耳をひっぱられたくらいで大げさな」


 ウサ耳のおっさんの号令に、殺気立った兵士らしき者たちも剣を抜く。


「わーお。嘆かわしいね。最近の若者は短気ときてる」


「然り然り」


 昔、どこぞの国の王様の腕を折ったときは、笑って許してくれたというのに。

 

 アゼルパインとギヨメルゼートを取り囲み、武器を突きつけてきているのは約30人ほどのウサギ耳の戦士たち。


(ほんとに何なんだろな、こいつら)


 というのも、100人中70人ほどは子供や明らかに非力そうな女たちであり、服もボロボロなのである。

 さらに言うと、武器を突きつけている者のうち20人は農機具のようなもの。

 

 脱走兵? の割には一般人もいるけど、どういう状況なんだろう?


「おい、ギヨ。殺すなよ? せっかくの現世の連中だ。状況を聞きたい」


「面倒だからヤだ」


「oh……」


 まったくこの邪竜王ときたら!

 本日は転生直後なり。そんな新しい晴れやかな日に虐殺とか見たくないんだけど!


 アゼルパインは獰猛な獣をなだめるように優しく話しかけた。


「どう。どう。落ち着け。心安らかになれ。

 じっくり見てみると、あのウサ耳とか超可愛くない? ぴょんぴょんしてそうじゃん! ぴょーんぴょーん!」

 

 アゼルパインはウサ耳たちのためを思って必死で邪竜王を説得したのだが、彼らには不服であったらしい。周囲を囲む者たちが険しい表情を浮べる。


「ふざけるな! 人間ごときが!」


「ザベル将軍! このような者ども、閣下が出るほどではありません。我々にお任せください! サル野郎! トカゲ野郎! オレたちが相手だ!」


 なんでこいつらは、的確に地雷を踏み抜くんだろう!?

 

 ぴきっ。

 振り返ると邪竜王が額に青筋が立てていらっしゃる。やばい。


「どう。どう。落ち着け。落ち着け。平常心。平常心!」


「ふん。余が下等生物に心を乱されるわけがなかろう。まったくいつも通りの平常心である。

 ……くくく。そうとも余は平常心であるぞ! その証拠に、この連中に生きながらにして地獄を見せてやろう!」

 

「やめたげて!? それもっとタチ悪いから!」

 

「そこまで言うのなら、ここは貴様に任せる」


 ギヨメルゼートは言うと、神殿の柱に体を預けて様子見の姿勢にはいった。


 ふー。とアゼルパインは額の汗をぬぐった。

 これで凄惨な虐殺は避けれた。勇者がんばった。すごい。誰か褒めて。


 であるというのに、


「貴様ら、ふざけているのか!?」


「サル風情が何様のつもりか!」


 ウサ耳軍団は、アゼルパインの苦労をわかってくれないのである。


 ――なので、わからせることにした。


「うるせえっ! ぴょんってジャンプしろ! おらぁっ!」


 先ほどのおっさんにツカツカと歩み寄り、鎧の上から金的!


「ぬおぉぉぉぉ?!」


 顔を真っ青にしたおっさん――ザベル将軍がぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 さらにこかして踏みつけ、持っていた剣を奪い取り、非戦闘員のなかの一人(一番奥のほうで大事に護衛されてる幼女だ)を素早くかっさらい、刃を首に突きつける。

 

「よし、お前ら。こいつの命が惜しかったらおとしなくしろ!」


 動きはじめて、幼女を人質にするまで約5秒。


 素晴らしい。完璧だ。

 アゼルパインは自画自賛した。

 なんという見事な手際だろう。転生直後であるというのにこの動き。まさに勇者的である。


 人選も完璧だったようで、ウサ耳軍団たちが露骨にうろたえる。


「ひ、卑怯な!」


「げはは! 卑怯で結構! 世の中、目的を達成してなんぼ――ぶげらっ!?」


 げしッ!


 哄笑をあげるアゼルパインの顔面を蹴ったのはギヨメルゼートであった。


「おい、ギヨ。てめえ、何すんだ?!」


 解せぬ。さっき「オレに任せる」と言ったのに。

 

 アゼルパインが抗議をすると、ギヨメルゼートは足でドスンドスンと地面を踏み鳴らした。

 朽ちた石畳がバキィッと割れて破片が舞う。


「何すんだ、じゃないわい! おぬし、なんでいきなり幼女を使って脅迫しておるの!? アホなの? 『人命を大切にするやつなのだなぁ』と感心しておった余の純情を返せ!」


「うっせえ! 昔から勇者ってのは人が嫌がることをやって何ぼなんだよ! ――げぶぅーっ。お、お前……また蹴ったな!?」


「おうおう。なんぼでも蹴ってやるわ! その腐った性根が治るならな!」


「邪竜に腐ってるとか言われたくねーよ!

 知ってるか? オレが人間の間でとってたアンケートだと、『竜人族で一番臭いと思うやつ』ランキング1位、お前だったからな!?」


「――ぶち殺すっ!」


 次の瞬間、必殺のドラゴンブレスが閃光を放った。

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