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魔王城の死闘

 ギヨメルゼートたちが城の中庭にたどり着いたとき、彼女はいた。


 整った芝生の生えそろった中庭の中央には湖と見紛(みまご)うほどに巨大な池。

 池の中には10メートル四方の四角い浮島が浮かんでおり、それぞれ南北から伸びる2本の橋がかかっていて、まるで果し合いの場のようにも見えた。


「よくぞここまでたどり着いた! 我が名はパルパ!

 大魔王様16将の1人にして、この城の主。『暁の魔王』パルパなり!」


 軽鎧の女性である。

 色黒で耳が長く、その目は鮮血のように赤い。

 ひるがえされた漆黒のマントは身体能力強化の魔力がかかっており、その手に持つサーベルは金剛石さえも切り裂くであろう尋常でない魔力を蓄えていた。


 その姿を見てシュラクが声を上げる。


「パルパ様! 何ゆえこのような場所で!?」


「……貴様らをこれ以上進ませはせんぞ! (われ)(みずか)ら貴様らを地獄の底に送ってくれよう!」


「危険でございます! ここはどうかご自重くださいませ!」


「ええい、うるさい。黙れ裏切者! 来い、シュラク! まずは貴様から誅殺してくれる!」


「――と、申しておりますが」


 ギヨメルゼートに尋ねかけたのはフルシェだった。

 尋ねかけられた邪竜王の方はというと、とても目を輝かせながら、


「おお。もしや、あれがボスというものか!?」


ボス(首領)? ああ、そうだ! ここでわたしと1対1で勝負しろ! いいか、一人ずつだぞ! 一人ずつ橋を歩いて渡ってくるんだ」


「あの(かた)、そこはかとなくヘタレましたね?」


「どう見ても橋に罠があるようにしか見えないのだが」


「……パルパ様は嘘のつけぬ正直なお(かた)なのだ」


 フルシェやレアメアの会話はさておいて、やる気になったギヨメルゼートが「はいっ!」と手を挙げる。


「そういうことであれば余がやるぞ! いいな、アゼル!?」


「はいはいどうぞ。ご自由に」


「ならば……。とうっ!」


 パーティから進み出たギヨメルゼートはダンっと跳躍し、すたっと浮島に着地。


「またせたな、魔王! 貴様を倒せば冒険者になれると思うと、余はちょっとワクワクしておるぞ!」


 パルパにびしぃっと指をつけつけ「わはは」と笑った。

 なにせ久方(ひさかた)ぶりの戦闘行為なのである。


「却下」


 だが、その指はパルパにぺちりとはたかれた。


「む?」


 ギヨメルゼートがいぶかしげに首をかしげると、パルパは地団太を踏んだ。


「なんで貴様らはさっきからそうなんだ!?

 橋を歩いてこいって言ったのだから、ちゃんと歩いてこい!

 城門のクエストもそうだ! 実は貴様ら、人をおちょくって楽しんでおるだろう!?」


「さっきのクエスト? いや、あれが普通であろ? なあ、アゼル」


「うんうん。普通普通」


「ぜんっぜん! 普通じゃ! ない! なんで手順を踏んで進まないんだ!?

 ――ということで、わたしはやり直しを要求するものであります!」

 

「めんどうだからヤダ」


「め、めんどう!?

 ……だいたい、だ! 貴様は冒険者になりたいんだろう!? だったら、橋のたもとにある立札くらい読め! 冒険者たる者、それくらいの注意深さは持て!」


「看板? おお、言われてみると、橋の向こう側に立札っぽいものが!

 ――じゃない。ちゃんと読んだし!」


「嘘だ! トラップが発動してないってことは、読んでないってことだ!!

 この橋にセットされたトラップはなぁ! あの立札を読むことで待機状態になって、誰かが上を通過すれば橋が落ちるようになっているんだ! 空中を飛んできたとしてもな!

 あの橋が水没していないってことは読んでないってことだ!」


「ちぃっ、そんなトラップが!? おのれ……なかなかやるな。さすがはボスといったところか!」


「トラップをスルーしたのは貴様のほうだろ!?

 池の中で貴様を(かじ)ろうと待機してたワニちゃんたちが可哀そうだと思わんのか!?』


 言われてギヨメルゼートが浮島の上から池を見下ろすと、3メートルはありそうな大きなワニの影。

 数は30を越えるだろうか。


 寂しそうにギヨメルゼートを見上げる目はちょっと可愛らしいかもしれない。

 橋から落下して水のなかでの戦闘をしなければならないのなら、それなりの実力者者でも手こずるだろう難敵と言っていいだろう。


「いやでも……。余ってば犬派だし」


「犬派、猫派の話をしてるんじゃない!!!」


 ぎゃーぎゃーわーわー。


「ええい、もういい! 面倒だ!」


 ごつん。

 脳天にゲンコツを食らったパルパは一撃で失神した。

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