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帝国の逆襲

 邪竜王に魔道戦艦がヒッチハイクされたその日、フクロウさえも寝静まった(うし)の刻のこと。


「ともあれ邪竜王だ」


 帝国の皇女と皇子は帝国軍人の義務のため、邪竜王の脅威に対抗すべく、顔を突き合わせていた。


 場所は戦艦内の作戦室。

 完全防音。内側から鍵をかければ外からは開けることのできぬ完全密室。


 帝国の士官たちは慎重であった。

 邪竜王に対抗しようとしているのがバレたて機嫌を損ねたならいったいどのような惨事が起きるか……。


 そのため、この場にいるのは特に信頼の置ける者のみ。

 ヴルムトとその副官であるレアードと、フルシェとその副官のセバル。そして――


「ちょっと待ってほしい。ヴルムト兄よ」


「どうしたフルシェ」


「どうかされましたか。フルシェ殿」


「どうもこうも……なぜ当たり前のように獣人がここにおるのか」


「?」


 フルシェの問いに、帝国の第六皇子、ヴルムト・ミレチェンカは「いったい何がおかしいのか?」と言わんばかりに首を傾げた。


 フルシェは思った。

 駄目だこいつ。この状況に思考力をぶっ壊されている。


「おい。そっちの獣人もそう思わんのか?」


 とフルシェが話を振ったのは、獣人たちの国ザルトメアで大将軍として名高かったザベル・メラニシモア将軍。

 本来、同席することなどないはずの仇敵は、フルシェの言葉に対しヴルムトと同じようにきょとんと首を傾げた。


「何かおかしかったでしょうか?」


「ザベル殿。気を悪くしないでほしい。我が妹はきっと、突然の邪竜王の襲来に混乱しておるのだ」


「さもありなん。

 フルシェ様、お気をしっかりお持ちくだされ。いまは国難のとき。あなたさまこそが帝国の未来を握っておられるのです」


 なんか励まされた。

 さらに、


「そうですよ! あきらめなけれなんとかなります!」


 言ったのはレアメア・ザルトメア(・・・・・)

 帝国の虜囚になっていた兎人(ラールシェント)の王女である。


 励まされたのはいい。

 理解はできないが、まあ、いい。

 きっと彼らもあの邪竜王に心を壊されてしまったのだ、可哀想に。


 むしろ問題は、


「いや、しかし、レアメア王女? ヴルムト兄とずいぶん仲が良さそうに見えるが……」


 この二人ときたら、なんか横に座ってるし、やけに距離が近いというか、手まで繋いちゃったりして。あまつさえそれが恋人つなぎだったりして。


 ヴルムトは「おお」と言葉を発すると、パンと手を叩いた。


「そういえばまだフルシェには言っておらんかったな」


「は? 何をですか?」


 フルシェの問いに、帝国の帝位継承権をもつ皇子はにっこりと微笑んだ。


「オレ、この戦いが終わったら(レアメア王女と)結婚するんだ」


「おおぉぉいぃぃ!?」


 さらっと爆弾発言である。

 邪竜王どころではない!


「兄上!? 兄上はいみじくも帝位継承権をお持ちなのですぞ!? どう見てもロリ……あいや、それはいいとして、いやよくないが、いやいやそんなことより、相手は獣人ですぞ!?」


 フルシェはヴルムトの襟首に掴みかかった。

 第三者が見れば大変危険な光景である。帝位継承争いのさなかにある二人なのである。突如の乱心として殺されても文句は言えぬであろう。


 が、フルシェはそれを知ってなお、掴みかからざるを得なかったのだ!

 比べてヴルムトは鷹揚にうなずいた。


「ああ、フルシェよ。お前の言いたいことはよくわかる。よーくわかるとも」


「ならば!」


 抗議するフルシェに向けて、ヴルムトが遮るように手を振る。


「オレは悟ったのだ。

 奴らの理不尽さの前には、人種など些細な問題だと。ロリだろうがなんだろうが問題ないと。

 そう。オレは悟ったのだ。レアメアは可愛い。それだけで充分なのだ」


「問題しかねえよ!? 何言ってんだあんたぁっ!!」


「まあ、ヴルムト様ったら。ぽっ」

 

「そっちも国を滅ぼした国の皇子相手に顔を赤らめてるんじゃない!! おい、そっちのウサ耳将軍はそれでいいのか!? お前ンとこの王女、仇敵に手ゴメにされてんぞ!?」


「フルシェ殿下。人生、ときに諦めが肝心ですぞ」


「お前、さっき(わらわ)になんつった!? そこは諦めちゃならんとこだろうが!?」


 ぷいっ。

 ザベル将軍は横を向いて答えなかった。

 なんかちょっと可愛いかもしんない。


「フルシェ様?」


「今度はなんだレアメア王女!」


 フルシェが鬼の形相で振り返ると、レアメア王女は幸せそうに微笑んだ。


「わたしのことはお義姉(ねえ)ちゃんとお呼びくださってよいのですよ?」


「誰が呼ぶか!! おい! この場に正気の者はおらんのか!?」


 なんだこの空間は!?

 いったい何が狂っているというのか。何かおぞましいのに、まるで平和にしか見えぬのが恐ろしい!


 ひとしきり喚いたフルシェがぜーぜーと息を吐いてうつむくと、ヴルムトがその肩を優しく撫でた。


「フルシェよ、落ち着け。お前は少し疲れておるのだ」


「くそっ! なんで妾が気遣われねばならんのだ!? もういい! 妾はもう部屋に戻る!」


 フルシェはバーンと扉を開けて密室を出た。

 この場にいると気が狂いそうだった。


 出ていくフルシェの背中にヴルムトが声をかける。


「おい。ところで対邪竜王の計画は?」


「知るか! お前らだけでやってろ! おにーちゃんのバカ!」


 バターン!

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