解けた糸
pixivに投稿したものの転載です
死ネタです⚠️
君は気付いてくれるかな。
俺はいつもそう思いながら、気持ちを高揚させて、期待を込めて、君に驚きを届ける。
今日は何をしようか、明日はこれをしよう。
そんなことを考えるだけで、気持ちがワクワクして、明日が楽しみになる。
今日は、本丸の庭に綺麗な椿が咲いていたから、それを君に届けることにした。
「主!」
俺は君のことを呼びながら、いつものように君の部屋の障子を開ける。
そこには、いつも通り、褥に横になった君がいた。
その姿は、か細く、色白な肌は儚げで、触れればふっと消えてしまいそうに感じる。
俺の主は、数ヶ月ほど前から病床に臥せっていた。
医者の話によれば、もういつ死んでしまってもおかしくない状態らしい。
だから、俺は君に驚きを届ける。
少しでも笑って欲しくて、その笑顔が見たくて。
その日は突然に訪れた。
「鶴さん!主が!!!」
光坊のそんな声で俺は目を覚ました。
「主がどうした!?」
いつになく焦った様子の彼にそう尋ねると、彼は、パニックを起こしている様子で、俺の手を引いて走り出した。
「とにかく来て!!」
ただ事ではない気配に身を固くして、光坊について主の部屋へと急ぐ。
そこには、雪のように白い肌を更に白くさせて、すっかり冷えきってしまった主の姿があった。
「主……???嘘だろ……」
俺はその事実が受け入れられなかった。
昨日まで笑ってくれていたのに……。
涙も出ないほどの悲しみに呆然とする。
まだ一緒にいられると思っていた。
もう少し後で伝えればいいと思っていた。
この気持ち。想い。
-俺は、主のことを愛していた。-
けれど、主はもう笑わない。
いつもそこにいてくれた彼女はもういない。
甘えすぎた俺には、彼女に想いを伝える術はなかった。