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3・僕の罪。彼女が悲しむのは当たり前だ

 目が覚めた時には僕——篠宮悠人の写真が壁一面に貼られている部屋にいました。


「断罪を断罪を断罪を断罪を断罪を断罪を断罪を断罪を……」


 隣には「断罪を」とひたすら繰り返している黒羽が。


「こ、ここは……?」


 そう言って、上半身を起こそうとしたけど無理だった。

 ってか体を動かすことが無理な状況だった。


 何故か?

 なんとか顔だけ動かして自分の体を見てみると——どうやら体をベッドでくくりつけられているからだ。


「く、黒羽……一体なにを……」


 そう呼びかけると、クルッと黒羽こっちを振り向いて、


「おはようっ、悠人君。起きたんだね」

「お、おはよう!」


 誰かに「おはよう」なんて言ったことなかったから、ついつい尻尾を振ってしまう。


「それで黒羽。ここは一体どこなんだ?」

「ここはわたしの部屋!」

「成る程。じゃあ壁一面に貼られている僕の写真は……?」

「なに言ってんの。わたしと悠人君は恋人同士なんだから当たり前でしょ! こうやって、いつまでも悠人君を眺めておきたいの!」


 黒羽の目はうっとりしていた。


 なんてことだ。

 常に僕のことを眺めたい、だなんて。


 確かに。これだけ天井にも壁にも貼っているなら、どこに視線をやっても僕を見ることが出来るだろう。

 それこそ、寝てる状態でも包丁を研いでいる状態でもぼーっと座っている状態でもいつでも僕を目に収めることが出来る。


 全く。僕は幸せ者だよ。


「ここがどこなのかは分かったけど……どうして、僕は拘束されてるのかな?」

「それはねっ、悠人君が悪いんだよ?」

「僕が?」

「うん。わたし、他の女の子と喋っちゃダメってあれ程言ったでしょ?」


 顔は笑顔なんだけど、迫り来る顔はどこか怖さを感じた。

 きっとこの『恐怖』という感情は、彼女の恐ろしいまでにキレイな容姿に由来するのだろう。

 鳥肌が立つくらい整っている顔。

 血の気が失せてしまうくらい白くてキレイな肌。


 全く。こんな女の子が彼女になるなんて、今更ながら夢のようだ。


「で、でも……あれは同じ図書委員であって……会話っていうより、業務報告みたいな……」

「あれ? あれ? 悠人君、まだ反省していないの?」


 そう言って、黒羽はどこからか包丁を持って近付けてくる。


「やっぱりカッターナイフじゃダメだったのかな? 悠人君が反省しきれていないのかな? だったらダメだ。この包丁で断罪を断罪を断罪を断罪を断罪を。悠人君を漂白しないと」

「黒羽……もしかして、僕が他の女の子と喋っていることに……嫉妬してくれたの?」

「当たり前じゃん! だって、わたしは悠人君の彼女だよ?」


 力強く断言する黒羽。


 なんてことだ。

 これだけ彼女を悲しませてしまうなんて。

 業務報告でも他の女の子と会話してはいけないのは、少々不便かもしれないけど……黒羽と天秤てんびんにかけて、どちらを取るかは明白だ。


「黒羽……ごめん、なさ、い……」

「え、え? 悠人君、もしかして泣いてるの?」


 気付けば、僕の双眸そうぼうからは涙が流れていた。


「ぼ、僕は……これだけ愛してくれている、黒羽に対して、不誠実なことを……もう、二度と他の女の子と喋らない。話しかけ、てきても、無視するか罵倒して、追い返す……ごめん、なさい……黒羽。だからそんな悲しそうな顔を、僕に、向けないで……」

「わわわ! 分かった分かった! 悠人君が反省しているのは分かったから! だから泣くの止めよ? わたしも悠人君の悲しむ顔、見たくないよ?」


 手で僕の涙を拭ってくれる黒羽。


 そのまま、拘束を解いてくれた。

 立ち上がると、関節の節々が痛かった。


「黒羽、ごめん……許してくれるかな?」

「許すもなにもわたしは悠人君の彼女だもんっ」

「僕を変わらず愛し続けてくれるかな?」

「もちろん! 十年後も二十年後も百年後も千年後も! ずぅぅぅっぅぅぅぅっとわたしは悠人君を愛してます」


 そう言って、黒羽は僕を心配させないようにか笑顔を向けてくれた。

 衝動的に抱きしめたくなったが、それをしたら嫌われそうなので、すんでのところで止めた。


「黒羽——痛っ。脇腹が痛い?」

「ああ、ごめんごめんっ。脇腹をカッターナイフで刺したからね。でも安心して。骨まで届いてないから」

「成る程。僕を気遣ってくれたんだね」

「当たり前だよ!」


 動くたびに、ずきずきと痛むけど——これくらいは僕の罪だと思って受け入れよう。


「悠人君。今日はここに泊まっていきなよ。それともお母さんとかお父さんが心配するかな?」

「ありがとう。お母さんなら大丈夫。あの人は僕がいなくなっても気が付かないだろうから」

「ふうん? じゃあ、一緒のお布団で寝よっ」

「受け入れるよ……でも、ちょっと一度帰らせてもらえるかな? パジャマとか下着とか持ってくるからさ」

「それくらい、わたしのヤツ貸してあげるよ!」

「ははは。女物の下着なんて着けてたら変態だろ。黒羽は面白いな。でもこれから先、黒羽の家にお邪魔することになるかもしれないからね。何着か持ってきたいんだ」

「あっ、そう考えてたんだねっ! うん、行ってらっしゃい! でもすぐに帰ってきてね」

「うん。なるべく早く戻ってくるから」


 そういう会話をして、黒羽の家を出る。

 スマホのマップを見ると、二駅分くらい俺の家からは離れているらしい。


 でも迷っている暇なんてない。何故なら早く戻ってこないと、黒羽を悲しませることになるからだ。


「そういや……黒羽にカッターナイフで切られて僕は気絶したんだろうけど……どうやってここまで運んできたんだろ?」


 そんな疑問が浮かんできたが、まあ愛する女の子は強いっていうから、鍛冶場の馬鹿力的ななにかが出たかもしれないなあ。

 でもいちいち考えている暇もないので、僕は地面を蹴って自宅へと急いだ。


 ★ ★


 悠人君が家から出て行った。


「寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい……」


 その瞬間、孤独が一気に押し寄せてきてわたし——三ヶ森黒羽みかもり くろはは膝を抱えて部屋の隅で座り込んだ。


 愛しい悠人君。

 わたしだけの騎士ナイト


「それなのに——わたしだけの悠人君を取ろうとしたあの女……絶対に許さない……」


 呟き、スマホを見る。

 その画面には一人の女の横顔が映っていた。


 新田凜にった りん

 悠人君に色目を使ってくるビッチだ。


「待っててね悠人君。悠人君が惑わされないように、このビッチを駆逐してあげるから」


 口元に手を当てると、ニタアッと笑っていた。

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