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18/22

18・小説を書くのって楽しいよね

「本を読んでもらってたら、自分でも書きたくなってきたな……」


 今日もいつも通り黒羽に本を読んでもらっていた途中、僕は唐突にそんな衝動に駆られ呟いた。


「自分でも書きたく?」

「うん。なんか読んでもらってきたら、自分でも書けそうに思えてきたし……なんか書くのって楽しそうだなあって」

「うわあ! 悠人君。もうそんな次元まで辿り着いてるの! クリエイターとしての才能があるんじゃない?」

「そうでもないよ。黒羽だってそう思わない」

「わたしも思う思う! 大好きな小説を読んでいたら自分でも書きたくなってきて……実は何回か書いたこともあるのです」

「もう?」

「うん。初めて短編小説を書き上げたのは小学一年生の頃かな?」


 なんてことだ。

 僕はこの歳になって初めてそんな衝動に駆られたというのに。

 全く。将来、黒羽は小説家になって大ベストセラーになるよ。


「書きたいと思ったら、すぐに書かないと! えーっと……パソコンはないから、原稿用紙でいいかな……? 悪霊退散!」

「ボク、便利屋だと思ってない?」


 黒羽がお札を壁に向かって投げつけると、案の定——日下部が現れた。

 また僕と黒羽がいちゃいちゃしているのを、隠れて見てたんだな。

 全く。とんでもない変態だ。


「で、聞いてたでしょっ? 原稿用紙ないの?」

「原稿用紙くらいなあるよ。それにしても小説を書きたい、ってなかなか文芸部員として意識が高くなってきたね。やっぱり文芸部っていうのは小説を読むだけじゃなく、書くことも重要で……」

「早く出して」

「あっ、はい」


 悦に入ったようにして語っていた日下部であったが、黒羽にキリッとした視線を向けられると、慌ててどこからともなく原稿用紙の束を持ってきた。


「はい。折角だから、三人で書いて読み比べしようじゃないか」

「あなたにしては面白い意見だね。でも読む前から悠人君の書いた小説が一番って分かるよ〜」

「いやいや、黒羽のが一番だよ」

「……バカップル」


 日下部がなにやらぼそっと呟いていた

 だけど、原稿用紙を前にしたら書く衝動が高まってきたので、いちいち突っ込まないでおく。


「さて……なにを書いたらいいんだろうか?」


 原稿用紙を前にして、僕は腕を組む。


 ……そうだな。恋愛をテーマにした小説を書かせてもらおうか。

 僕が黒羽を愛おしく思う気持ち。新田にったりんに対して「死んで欲しい」と思ってる気持ち。


 それを、この四百字詰め原稿用紙にぶつける……!

 僕はシャーペンを手に取り、熱意を原稿用紙にぶちまけるのであった——。



 一時間後。


「書けた!」

「わたしもっ!」

「ボクも書けたよ」


 どうやら僕を含めて三人共、同じようなタイミングで小説を書き上げたらしい。


「悠人君の小説見せて見せて〜」

「受け入れるよ。黒羽のも見せてよ」

「あっ、ボクの見る? おーい、ボクのも見てー。ボクのも見て……ください……」


 日下部のには興味がなかったが、折角なのでちょっとだけ目を通してやろう。



 篠宮悠人

『彼女は天使だ。彼女は神だ。彼女の姿を見ると愛で頭が一杯になった。愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。ラブ&ピース。神神神神神神神神神神。彼女のためなら、僕はどんな罪でも背負えるかもしれない』


 三ヶ森黒羽

『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ! 断罪を断罪を断罪を断罪を断罪を断罪を断罪を(以下続く)』


 日下部青葉

『私は彼の背中に手を置いた。「ごめんなさい……だから、いなくならないで……』涙を流して懇願する。すると彼は振り返り、私の肩に手を置いて「すまん。俺はもう行かなくちゃ」と悲しげな顔で口にしたのだ』



「二人共、最早小説じゃないじゃないかっ!」


 僕と黒羽の小説を見るなり、何故か日下部は見当違いなことを叫び出した。


 まあ、こいつの意見なんてあてにしてない。

 日下部の言葉に反応せず、


「く、黒羽……僕の小説どうだったかな?」


 と黒羽に恐る恐る尋ねた。

 すると黒羽はパッと表情を明るくさせて、


「うんっ! すっごい面白かったよ! 主人公が彼女を思う気持ちがすっごく表現されてたと思う」

「それは良かったよ。この小説のテーマは『愛』だからね」

「やっぱり悠人君は天才だよ〜。つい、物語に引き込まれちゃったよ」

「黒羽の小説の方が凄いよ。僕には真似出来ない。ついつい声に出して読んじゃったもん」

「そう?」


 僕と黒羽はお互いの小説を褒め合う。


 小説を書いたのは生まれて初めてだったけど、なかなか面白いものだ。

 小説を書いてる時は頭が空っぽになるし。

 他人に読んでもらう時は、少し照れ臭いけど、褒められた時の喜びも格別のものであった。


 これからも、たまに小説を書いてみるのもいいかもしれない。


「ちょ、ちょっと! ボクのは? ボクの小説に対する感想はっ?」

「うざいな……」


 日下部が割り込んできて、感想を求めてきた。


「言わなくても分かるだろ? 黒羽はどう思う?」

「つまんない。悠人君の小説と比べたらゴミ同然」

「僕も黒羽と同意見だ。一体この小説でなにを伝えたいのかが分からない」

「辛辣っ!」


 日下部の小説は最初の二文字読むだけで欠伸が出てしまった。

 よし。そろそろ良いだろう。


「黒羽」

「うん——そろそろ日下部青葉にはお役ご免だね」


 黒羽が日下部の額からお札をがした。


「結局、ボクってこういう扱いなのか……」


 納得してなさそうな顔をしながらも、日下部の姿がいつものように白い煙のようになって見えなくなっていった。


「さて。まだ帰るには時間があるし、黒羽。もう一度本を読んでくれるかな?」

「もちろんだよっ! あっ、次は新しい本にいってみようか」


 黒羽が手を叩いて、嬉しそうにスキップしながら本棚まで移動する。

 そして鼻歌を口ずさみながら、小説をセレクトしていた。


 ——やっぱり僕の彼女は可愛い。


 後ろ姿を見ているだけでも、心が癒されていく。



 グラッ。



「ん?」


 彼女の後ろ姿を眺めていたら。

 本棚の上に置かれていたダンボールが揺れたのを見た。


 その矢先。


 ——本棚の上にあったダンボールがバランスを崩し、黒羽目掛けて落下していったのだ。


「く、黒羽! 危ないっ!」

「えっ?」


 彼女を救うため、咄嗟に体が動いていた。

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