グッバイ・ノクターン
17歳の夏のある日。
私は縋るように、サホとの思い出の場所を定期的に訪れていた。
サホが居なくなってしまった次の日、私は両親にサホの家の事を尋ねた。しかし求めていた回答を得ることはできなかったのだ。
私の両親曰く、父親は逮捕され、母親は実家へ戻り、サホは遠くの町の児童施設へと行ったそう。
15歳の私はなんとか警察にサホが行ってしまった施設を教えてもらい、手紙を送ることを決めた。
“サホへ”
“もうしばらくあっていないけど、元気ですか?笑顔ですか?”
毎回、そんな事を書いていただろう。
そして、最後にいつもこう書いていた。
“また会う日まで”
もう、一生会えないとわかっていたけれど、それでも夜、ムーンアイランドをみて祈っていた。
最初の数カ月は、全くと言って良いほどに手紙の返事はなかった。
けれど、2カ月程経つと、2週間に一度程のペースで返事が届いた。
“元気です。いきなり居なくなってごめん。”
“手紙読んでもらえたようでよかった”
“毎日ミツルの事を考えています。”
そして、私と同じように、最後には
“また会う日まで”
と、合言葉のように書かれていた。
今でも私は一枚も捨てず、1つの箱に入れている。
しかし、最近手紙の返信が来ない。
その事を母に伝えると、一枚の手紙を私に渡したのだ。
「ごめんなさい。どうしても見せたくなくて」
どうも嫌な予感がして、みるのをためらう。
ゆっくり、震える手を落ちつかせ、混乱する頭を落ちつかせる。
“ミツル、ゴメン。また僕はあの病にかかってしまったようだ”
その一言だけ、日付は――――先月。
15歳のあの日と同じような衝撃が身体に走る。
やっと埋まりつつあった穴が、再び空いた。
「あ…あぁ…」
声が上手く出せない、叫び声すら出ない。
その後の記憶はほとんどない。
気付いたら夜で、今までサホから届いた手紙の入った木箱を持って、ムーンアイランドに続く浜辺に居た。
「サホ…」
改めて、今までに溜まった手紙を見る。
私がサホを想っていた事をサホが私を思って書いてくれた、形として唯一残るモノ。
「サホ…、愛してるわ…。ずっと…今までもこれからも…愛してる」
ムーンアイランドにある教会を見つめながら、ゆっくりゆっくりと海の中へと入って行く。
今日は、あの時のように浅くない。いつも通りの深い海。
木箱に水が入ると、みるみる手紙が広い海へと放たれていく。
このまま私が死んで、生まれ変わっても、生まれ変わったサホに会いに行こう。
私達が生まれ変わって、また出会えるなんて保証はどこにもない。
でも誰よりも先に、サホ、貴方に会いに行くと決めた。
17歳、夏のある日。
少しだけ汗ばんだ私の身体に海水が染みていく。
さよなら、17歳の私。