メモリー・ノクターン
「…え?」
翌朝、サホの家に行くと、ドアは開けっぱなしで、昨日まで散らかっていた玄関は綺麗に整頓…
というか、何も無くなっていた。
玄関で靴を脱いで、ゆっくり家の中へ入る。
昨日とはまた違った静けさがあった。
「サ…ホ?」
ゆっくり、昨日サホとサホのお父さんが居た部屋に入る。
昨日まであった、テレビ、パソコン、ソファー、…全て無くなってしまっていた。
シーン…、と静まり返って、その静寂がやがて不安へと変わっていく。
あの後、私は家へと帰された。
サホは治療の為に病院にそのまま残して…家へと帰ったんじゃなかったんだろうか。
疲れてしまっていたのか、私はすぐに布団に入って寝てしまったらしい。
仕事から帰ってきた母に起こされたのだ。
慌ててサホの家から出る。
「どこ…、サホ!サホ…ッ…」
きょろきょろと辺りを見回す。
居ない、居ない居ない居ない!!!!!!!!!!!
「ど…こ…」
道路にぺたり、と座り込む。
木の実が弾けたかのように、私の身体の内側が弾けた気がした。
心にかっぽり、穴があいてしまったかのよう。
「サホ…サホ…」
どこへ行ってしまった?
病院では、治療したら家に戻れると看護師と警察は言っていた。
もし彼等が嘘をついていたら?
そんなのはあり得ない…と思いながら、ゆっくり立ち上がる。
ポロポロ、と今度は涙が零れ始める。
熱いコンクリートの道路に、私の影と涙の痕が付く。
そうだ、と1つ思い出した事があった。
「ムーンアイランド…」
丁度正面に島が見える。
今なら、今ならきっと行ける。
スカートの裾を両手で持って、ぱしゃぱしゃと海の中を歩いていく。
「…やっぱり」
教会に辿り着くと、綺麗に積んでいたはずの石達は崩れて置かれていた。
几帳面なサホがこんな置き方する筈が無い。
ゆっくりと重たいドアを開ける。
1人だからか、不安の所為か、いつもよりドアは重たく感じた。
中は、ぱっと見た所は前来た時と変わらない。
…けど、一番奥、教会の椅子の上にいつも置いてある本の上に1枚の紙が置いてあった。
どこかの本のページを破ったんだろうか…と思いながら手に取る。
サホが書いたであろう、そのメモの内容はこうだった。
“ごめん、ミツル”
“急な事で僕自身もびっくりしています。”
“昨日のことはごめん。僕は今から遠い街の施設に預けられるそうです。”
“最後の挨拶が出来なくて、ごめん。でもきっとこれを読んでくれてる思う。”
“僕はずっとミチルの事を忘れない。だからミチルも僕の事を忘れないでね”
どんな思いで彼はココを訪れて、この手紙を書いて置いて行ったんだろう。
突然の平和を奪われ、愛する彼までも失ってしまった。
昨日、もしあの時助けに行かなかったら、と、そんなことまで考え始めてしまった。
15歳の夏。私の人生ががらりと変わってしまった出来事だろう。