ムーン・ノクターン
「ねぇ、サホ、今日はちょっと冒険に行きましょう」
朝、サホが私の家へと来たのでそのまま部屋にあげた。
私の両親はもうとっくに仕事に出かけていて、家には私とサホの2人だけだ。
外は快晴、もう岩場に行くのも飽きた、ということで今日は母に内緒で持っている地図を見て何処に行くか決めようと思う。
この地図は前の母にもらったものだ。
『きっと役に立つ』と言われて、ずっと、ずっと持っていた。
「この島に行きたいの、ほらみて、あそこよ」
地図を片手に、窓から見えるすぐ近くの島を指差す。
古ぼけた教会がぽつんと森の中に建っている島だ。
“ムーン・アイランド”と地図には記されている。
「今ちょうど干潮の時間なの、満潮でもいけないことはないんだけど」
「そこに、何かあるの?」
私の横に並んで、じっと島を見つめるサホ。
12歳を過ぎてちょっとずつ背が伸びて、声も変わって、今では私のお父さんよりちょっと幼いくらいだ。
対する私の成長期というものはもう終わってしまっていて。
「行こう」
先にそういったのはサホだった。
何かから逃げるように、私の手を引いて私の家から出た。
私の家から島まではきっと15分くらい。
ぱしゃぱしゃと海の中を歩く。砂の感触を足で確かめながら。
夏の海は気持ちが良い、これが“ツクリモノ”でも、私は満足している。
本物の海を見て感動があるなんて確信はないから。
「ずいぶんとツタで飾られてるね」
「そうね、でもその方が綺麗じゃない?」
教会を見つけた、が、ツタまみれで中に入れやしない。
ガンガン、と蹴っているが、頑丈なツタの鍵は外れやしなさそう。
「ねぇ、こっち」
指差す先には、私1人が入れそうな小窓。
なぜかそこにツタは絡んでおらず、鍵もかかっていない。
恐る恐る開けて中へと入る。
中は当時のままなのか、少し埃を被っている程度。
大きい本来の扉を見てみると、中から鍵がかけられていた。
近くの大きな石で鍵を壊し、ゆっくりと開ける。
外の日が差し込むと、奥のステンドグラスが色鮮やかに輝く。
「綺麗ね。…これ、私が読んだ本の教会とそっくり」
「そうなんだ…、そうだ、ここを僕たちの秘密基地にしよう」
そう言ったサホの横顔は、どこか焦りと恐怖の色に染められていた。