ヘルプ・ノクターン
「うっ…うぇえ…ひっく」
次の日、私とサホはまた昨日の岩場に座っていた。
泣いているサホと、何も言わず横に座っている私、ミツル
半歩分だけ間を空けて横に並んで座る。私たちのいつもの距離。
「大丈夫?…昨日もお母さん達に―――」
「うっ…ひっく…、う…ん」
半袖からちらりと見える赤黒い痣
昨日までは無かったズボンの裾の染み。
サホの服を見れば、昨日彼の家で何があったのか言わずとも分かる。
「大丈夫、大丈夫だよ」
体育座りをして、顔を埋めてすすり泣いているサホ。
何を言って良いか分からず、私はサホの背中を優しくさする。
ぽん、と背中に手を置くと、小さく悲鳴を上げた。
じんわり、と私が触れた所に赤い染みができる。
傷があったんだろうか、すぐに手を離す。
「昨日は、なんで」
「………」
何も言わなかった。
無言で、ふるふると小さく頭を横に振るだけ。
サホの家は、お父さん、お母さんの3人家族。
サホのお父さんは、私のお母さんと同じで本当のお父さんじゃないって、前にサホが言ってた。
本当のお父さんは、サホが生まれる前に出て行ってしまった、と。
サホが生まれてしばらくは今の様な事は怒らなかった、と。
問題は、サホが5歳の頃の事だった。
サホが5歳の頃、とある極めて珍しい大病を患ったらしい。
その病気をどうしても治したい、と、この国の中のほとんどの病院をまわったそうだ。
けれど、どの病院でも治療ができなかったそう。
そしてその頃、気が滅入った母親が、とある宗教にはまってしまったらしい。
そしてとうとう他国の病院にまで足を運んだそう。
そこでやっと治療を受け、一命を取り留めた…とサホ本人が言っていた。
母親は宗教にのめり込み、それに困り果てた父はアルコールに頼ってしまったそうだ。
……もう数年もその状態が続いている。
これ以上悪化もしないし良くもならないだろう、と言っていた。
それから、酒に呑まれたサホの父親はそのうちに幻覚を見るようになったらしい。
“お前が居るから”と、サホに酒瓶を投げつけたり、蹴ったり暴力でサホを毎日のように痛めつけている。
サホは抵抗するだけ無駄だから、と私以外に誰にも言わず毎日耐えている。
何度かサホの両親に会った事があるが、そんな事をする人達には見えなかった。
けれど、毎日のサホの様子を見るにつれて、私の心はだんだんと痛んでくる。
大好きな幼馴染、サホ
私がこうやって昔の事を思い出している間も、泣いている。
もうこうして数時間経つ。泣きっぱなしで、顔を一切上げない。
泣いている彼を見ると、それがうつったのか、鼻がツ―ンと痛くなって、涙が出てくる。
身体はどこも痛くない、ただ、心が痛むのだ。
心が痛む私と、身体も心も痛みすぎたサホ
どうにかして、サホを助けてあげられないのか。