ユートピア・ファンタジア
100年、それは僕のお父さんやおじいちゃん、それより前の人たちをずっと見守ってきたということだ。
僕の血筋は長くて30年と生きられない。一番長く生きたのは父さんで、37歳だった。アンナのちからを借りずにいたら、きっとこの国は僕が生まれる前になくなってしまっただろうし、僕がアンナの言う通りにしないともっとこの国が衰退してしまうことは明らかだった。
一心同体だというこの瓶はずっと見覚えがあると思っていた。似たものが父さんの部屋……つい半年前までここにあったからだ。けれど、父さんの小瓶は僕のと違って深い緑だった。
「父さんの小瓶と、僕のは違うけど」
ここまで言ったところでアンナは驚いた顔をした「見たことあるの?」と尋ねてくる。うん、と頷くと、はぁ~~と長い溜息をついて窓に腰かけていたアンナは僕の方へ地に足をつけて一歩、一歩と近づいてくる。
「いい?この小瓶は誰にも見せちゃだめよ、お父さんは貴方に希望を持ったのかもしれないけど、使用人にも、他の妖精にも見せちゃだめなのよ」
ぐい、と小瓶の紐を引かれる。苦しくなってアンナの腕をつかむ。信じられないくらい冷たかった、と同時にびりびりと僕の腕に電流のような痛みが走る。すぐに手を離すと両手が火傷していた。
「だめよ、私達と人間は触れ合っちゃケガしちゃうわ」
座り込んでアンナを見上げると、逆光になった彼女の真っ黒な顔に対して眼光が鋭く僕を刺すことと、彼女の腕から薄く煙が出ていた。
「ユートピアよ、ミシェル。あなたならできる。貴方のお父さんがやったように、この国の人たちの生活を豊かにすることが出来る。自らを犠牲にしてでも」
くるりと背を向けて再び窓辺に彼女は腰かけた。僕もゆっくりと立ち上がって窓辺に腰かける。
城から見える海のそばにある灯台がずうっと遠くを照らしている。キラキラと光を反射している。
「あの灯台はあなたのおじい様がつくったのよ。他の国と貿易をはじめたのもあの方だったわ」
「まあでも、あなたのお父さんが亡くなってから貿易は途絶えてしまったのだっけ」
海の方をみているとゆらゆらと船が見えた、目をこすると見えなくなった。アンナはくすくすと笑って「一心同体っていったでしょ?私の記憶も貴方の記憶もみえるのよ、思い通りに」と言った。
アンナの方を見ると、目が赤く光って猫のような瞳孔の形になっていた。普段のアンナの目とは違って見えた。これが妖精のちから、か――――




