アンサー・ファンタジア
あれから僕は朝まで眠る事が出来ないまま、こうしてまた夜を迎えた。
朝から元気のない僕を見てメイド達はみな心配そうに首を傾げるばかりで、誰ひとりとして僕に聞く者は居なかった。
「まだ来ないのかなぁ」
時刻は昨日と同じくらい。今日は天気が悪くって昨日見たいに綺麗に星が見えなかった。
「ミシェル」
後ろから声がして、飛び上がるように僕は後ろを向いた。
「妖精、さん」
「アンナよ、アンナ。覚えて。私達妖精にも名前はあるのよ。昨日は名前が無いと言ったけれど、妖精が人間に名前を教えることは許されないの。貴方と私は例外だけれど」
例外ってどういうことなんだろう。
首を傾げると『面倒臭いわね』と一言吐き捨て、昨日のアンナとはまるで別人だった。
「昨日の話の続きよ、貴方の寿命と引き換えに、ミシェルの国を絶対に負けない国にしてあげる」
あまりにも話の内容が極端すぎて、僕はぽかんと口を開ける。
僕の間抜け面を見て、アンナはくすくすと笑う。
「貴方はただ、私が言った事を自分が言ったことにするの、分かる?いいわね?そうすればミシェルは……」
「や、やるよ。僕、やる」
僕の父さん、つまり前国王は不滅の王と称されていた。
けれど2年ほど前の惨敗を気に、この国は変わっていってしまった。
国は衰退していき、人々は見る見るうちに貧しくなっていってしまったのだ。
もし、もしもアンナが言う「絶対に負けない国」が本当なら、僕は自分の寿命をアンナに渡しても良いと思った。
ゆっくりとアンナが近付いてくる。一歩一歩と僕との距離を詰めて来る。
僕は後ずさるがすぐに窓の縁へと追いやられてしまい、身体が半身、窓から出てしまう。
「な、何す……」
とうとうアンナが僕の目の前に来たかと思うと、ガブリ、と首をひと噛みされる。
突然の激痛に更に身を反らす。
声にならない叫びが部屋に響く。
彼女を僕から引きはがそうと両手を上げるが力が入らない。
「……何するのよ」
やっとのことで彼女を突き飛ばすと、何やら不満げな表情で僕を睨む。
口元には月の反射で艶めかしく赤く光る血。僕の血だ。
急いで止血をしようと首元を手で抑える……が、何も出ていなかった。
「じゃあ、今日はこれで帰るわ。また明日も来るから窓を開けておいて。きっと明日は雨が降るわ」
そう言うと彼女は僕の後ろの窓に足を掛け、飛び降りていってしまった。




