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とある国の子供たちのエチュード  作者: 梁瀬モモ
イノセント・エレジー
20/28

グッバイ・エレジー

ミツルとの文通を初めて二年程が経った。

年齢を重ねるごとに、僕はだんだんと男らしくなり、父さんに似ていく。


鏡を見る度に、背が高くなって、肩幅、声、手…、二年前の僕とは変わり果ててしまった。


結局、何度かあの街を訪れることはあっても、ミツルに会う事はなかった。

……少しだけ、僕は彼女を避けてしまっていた。


僕の変化は、外見じゃなく、内面にも表れていた。

昔よりも活発になった、友達も施設で出来たし、17歳になってからは、近くの工場で社会経験として仕事を手伝わせてもらえるようにもなった。


「サホくん…?大丈夫かしら」


部屋のドアをノックした先生が、返事のない僕を心配してドア越しに声を掛ける。


「大丈夫…です」


一日中寝ていたからか上手く声が出ない、なんだか頭も痛いし、昨日の夜から咳も止まらない。


「あ…先生、手紙…」


ゆっくりと起き上がり、重い身体を引き摺りながら、机の上の便箋を手に取る。


「569…か」


封筒の端に小さくかかれた数字。この二年間で僕達が交わした文通の数。

ドアをゆっくりと開け、先生に便箋を渡す。


「お願いします…」

「えぇ…わかったわ、夕飯は…」

「後で取りに行きます…、では」


ばたり、とドアを閉めると先生の足音が遠ざかる。


「…今日は灯篭が綺麗だな」


年に一度、この時期に行われる『灯篭飛行』

丁度、僕がココに来た時もこんな風にたくさんの灯篭が飛んでいたっけ。


ドクン、ドクンと身体の内が脈を打つ。

立っているのがだんだんと辛くなって、ベッドに寝転ぶ。


これはただの僕の予想だが、僕は今日死ぬ。

数日前から背中や首、腕や足に奇妙な痣ができ、今では全身を覆うまでとなった。


ミツルは今どうしているかな。

手紙にも僕の先が長くない事は書いておいたけれど、どんな反応をするだろうか。


どうせもう会えないなら…。


僕はいつしかそういうことばかり考えていた。


そして、いつのまにか僕は灯篭が良く見える崖に来ていた。


「ミツル…会いたいよ」


ぎゅう、と今までミツルと交わした文通の入った袋を抱く。

じり、じりと崖の先へと進む。


「きっと、向こうで会えるよね」


二回目の灯篭が一斉に飛ばされる。僕の足元の高さに来る。

ゆっくりと、ゆっくりと紺の空にオレンジの炎をともした灯篭が無数に浮かぶ。


まるでこの世のモノとは思えない光景……。


手紙の入ったビニール袋を破り、出来るだけ灯篭に当たらないようにと力いっぱいに投げる。


バサバサ――――と、音を立ててヒラリヒラリと手紙が舞う…。


「ミツル…」


痣はもうきっと治らないし、この病も治らない。それならいっそ死んでしまおう。


17歳の夏。僕は灯篭と手紙と共に海に溶けた。

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