レター・エレジー
夕方、僕はあの日降りたバス停のベンチから海を眺めるのが日課になっていた。
夕陽を眺め、夜灯篭が流され、空に還るまでを見届ける。
施設に来て十日程が経った数日前、僕の元に1通の手紙が届いた。
ミツルだった。誰から僕の居場所を聞いたのか皆目見当もつかなかった。
“サホへ”
“警官のお兄さんから聞きました”
“突然の事で驚いているけれど、元気で過ごしていますか”
“また会う日まで”
ボロボロの紙、きっと教会にあった本の空白のページでも破って書いたのか。
字は震えていて、文字を見るだけでミツルがどれだけ緊張していたのか伝わってきた。
もう四日ほど経っているけど、僕はその手紙にどう返事をして良いか分からなかった。
そして僕はその後2か月ほどミツルに返事を書く事が出来なかった。
勝手に何も相談もせず居なくなった僕が再びミツルと連絡を取る資格が無いと思ったからだ。
何日経っても、ミツルの手紙を捨てる事も、どこかに置いておく事も出来なかった。
肌身離さず、ミツルからの手紙を読み返し、持っていた。
2カ月経ったある日、ふと僕はミチルに返事をかく事を決心した。
“元気です。いきなり居なくなってごめん。”
“手紙読んでもらえたようでよかった”
“毎日ミツルの事を考えています。”
“また会う日まで”
もしかしたら、僕の事をミツルは忘れてしまっているかもしれない。
その恐怖が僕をじわじわと蝕んだのだ。
書き終えた手紙を先生に渡す。すると何も言わず受け取ってくれた。
「今日も届いてるみたいよ、幸帆くん」
手紙が届くと、その日のうちに先生が僕の部屋へと手紙を持って来てくれる。
その後、2年程僕とミツルは手紙でやり取りをすることとなるのだ。




