ニュー・エレジー
もう、バスに乗って1時間程経つ。
順調に僕は目的のバス停に近付いていた。
「次は~…です…。お降りの際は…」
あと、5つ先の停留所で僕は降りる。
「――――や、坊や」
もう暗くなってしまった窓の外をぼーっと眺めていた時、後ろからおばあさんに声を掛けられた。
「もしかして、灯篭町に行くのかい―――?」
おばあさんは蛍光ペンで印がつけられているバスの路線図を指差して言った。
「ああ、はい…。初めてで」
「そうかい…、あそこは良い場所だよ。私はその先で降りるんだけれど―――ほら、もう見えるよ」
おばあさんが、窓の外を指差した。
窓の外を見ると、さっきまで何もなかった暗闇の中に、いくつか光が見え始めた。
「この時期は、灯篭町に昔からある灯篭飛行があるのさ―――」
海の上から飛ばす灯篭は、まるで星の様。
暗い空に星が吸いこまれていくようだった。
「次は―――、お降りの際は―――」
「ああ、此処だよ坊や、降りなさい」
おばあさんに言われ、慌てて降りる。
警官のお兄さんに渡されたお金を払って、軽い足取りでバスを降りる。
振り返ると、バスの中からおばあさんが手を振っていた。
「灯篭町……」
バス停にはそう書いてあった。
バスが行ってしまうと、バスの中から見た綺麗な景色がそのまま目の前に現れたようだった。
「サホくん……かな」
灯篭に見とれていると、バス停のベンチに座っていた女性が立ちあがって声を掛けてきた。
もしかして、この人が次の僕の行き先に連れて行ってくれる人だろうか。
「はい…。あの」
「詳しい話は施設でしましょう。バスに揺られて疲れているだろうし」
僕に背を向けて、それ以外何も言わず歩いて行ってしまう。
見失わないようにと追いかける。先程まで軽かった荷物が重く感じる。不安だろうか。
――――明日から、僕の新しい人生だ。




