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とある国の子供たちのエチュード  作者: 梁瀬モモ
イノセント・エレジー
16/28

アンブレラ・エレジー

バスが来る時間まで、あと1時間以上ある。

僕は一人、家から持ってきた小さな腕時計を片手に夕焼けが映る綺麗な海を見つめていた。


「ミツル…」


これからどうしよう、という思いよりも、何も言わずこうしてどこかへ行ってしまおうとしている申し訳なさで頭がいっぱいだった。


「手紙くらい、書いて行こうかな…。見てくれるか分からないけど」


日記を書くために、と持ってきたノートを一枚破って、ペンを走らせる。


“ごめん、ミツル”


“急な事で僕自身もびっくりしています。”


“昨日のことはごめん。僕は今から遠い街の施設に預けられるそうです。”


“最後の挨拶が出来なくて、ごめん。でもきっとこれを読んでくれてる思う。”


“僕はずっとミチルの事を忘れない。だからミチルも僕の事を忘れないでね”


きっとミツルは怒るだろう。もう許してくれないかもしれない。

でも、それでもいい、僕の手紙を読んでくれさえすればいいんだ。


荷物を置いたまま、ムーンアイランドの教会へと走る。


いつもなら、この位の時間に一度潮が引いて道が出来るはずだから。


「っはぁ……はぁ、…ごめんね、ミツル」


二人で並んで寝た階段のすぐ近く、一番奥の長椅子の上に手紙を置く、飛ばされないように石を置いて。

時計を見ると、もうすぐバスの来る時間だった。


「急がなきゃ」


シン…と静まり返る暗く冷たい教会も、その中で色鮮やかに輝くステンドグラスとも今日でお別れだ。

海はもう満ち始めていて、ひざより少し下くらいの深さになってしまっていた。


足がとられ、2回転んだ。

口の中が海の味がする。青い味。


「っぐ…うぅっ…」


教会から遠ざかるにつれて、“これで終わり”という気持ちが増してくる。

そう考えるだけで涙があふれて止まらない。

泣いちゃダメだと自分に言い聞かせ、涙なのか海水なのか分からないソレを服で拭う。


無我夢中になって走ると、いつの間にかバス停に着いていた。

息を整えて少しして、古びたバスがやってきた。


この光景は、僕が夢で見た光景とほぼ同じ。

つまり、この横に夢の中の僕が居るとすれば―――?


傘を、傘を持っていない。…夢と全く同じとは限らないのか…。


「…僕はじきにココに帰って来るのかな…」


ハッと我に返る。夢の中の僕もそう言っていたっけ。

バスが大きな音を立ててドアを開け、僕を飲み込もうとしている。


「ドアが閉まりますので―――ご注意ください―――」


運転手のアナウンスの後、ドアが閉まる。

僕が座席に座るのを確認すると、ゆっくりと動き始める。


今日から、僕の人生は変わっていくのだ。

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