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とある国の子供たちのエチュード  作者: 梁瀬モモ
イノセント・エレジー
15/28

ブラック・エレジー

「じゃあ、私、もう帰るから、また明日、ね」


日暮れ前、夕焼けが眩しい。交番から出ていくミツルの表情は逆光で見えなかった。

きっと、笑顔じゃなかった、どういう顔をして良いか分からなかったと思う。


「―――君…、本当に良いの?」

「はい…」


力の抜けた声で呟く。きっともう、僕らに『明日』なんていいものはこない。


そうか…、と何か言いたげな警察官はぐっと言葉を飲み込み、僕と一緒に僕の家へと向かう。

もう、今日で全部終わらせようと、10数年程の短い人生に一度幕を下ろそうと思った。


「…ただいま」


空けっぱなしの玄関、2人の大きさの違う影、玄関は相変わらずぐちゃぐちゃだった。

廊下と玄関に数滴、乾いた赤が落ちている。僕の赤。


「ちょっとだけ…待っててください」


もう、振り返るのが怖かった。僕じゃない方の影が、ゆっくりと動く。

後ろから小さい声で「わかった」と一言。


土足のまま、僕は家の中へ足を踏み入れる。

ガラスが飛び散っていて、裸足だと怪我をするだろう…。


両親の寝室のクローゼットを乱暴に開けて、なるべく大きい鞄を選ぶ。

歯ブラシ、お気に入りのぬいぐるみ、…母さんの口紅。


いくら詰めても重みを感じない、むしろ心が軽くなっていく。

自分の服なんて、どうにかなるだろうと、小さな旅行に出かける程度の服しか入れなかった。


「…いってきます。…ありがとう」


リビングに一人になると、案外広かったんだと実感する。

ツ―ンと鼻の奥が痛くなって涙が出そうになる。


「おかえり…、もういいの?荷物持つよ」


こくり、と頷いて荷物を渡す。黒のボストンバッグはパンパンで、今にも持ち手がちぎれそう。


「じゃあ…行こうか」


軽々と鞄を持つと、もう片方の手で僕の手を握る。

横目で警官の顔を見る。まだ20代前半くらいかなぁなんて思いながら会話もなく歩く。


「…ココ、3番目に来るバスに乗るんだ。良いな?…しばらくのっていると…」


時刻表と、読み方の分からないバスの路線図を渡される。

開いてみると僕が乗って降りるであろう区間が蛍光マーカーで乱暴に線が引かれていた。


「…お兄さん、ありがとうございました…」


荷物を受け取り、お辞儀をする。

他の仕事があるから、と、色々な紙を渡されて『何かあればこれに電話をしてくれ』だそう。

それを僕に伝えると、小走りで交番に帰って行ってしまった。


これから僕は、どうなってしまうんだろう。何も知らない、一寸先も見えないのだ。

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