プリディクション・エレジー
ああ、また夢だ。
だって目の前に僕が立ってる。いつか忘れた、あの日みた夢の続きだろうか。
「どうせ死ぬくせに。ああ、俺は」
今日はあの日と違う、どこか知らない部屋に居た。
部屋の電気はついておらず、崖の近くに建っているのか、外にはいくつもの灯篭が浮いている。
「ああ…ミツル…」
目の前の僕は具合でも悪いのか、その場に座り込み、ゲホゲホと咳込む。
手には、手紙。誰が書いたんだろうか気になって近付くが触れることは出来ない。
急に立ち上がった夢の中の僕は、本物の僕の身体を通り抜けて、部屋の外へ出て行ってしまった。
この建物はどうやら何かの施設らしい、少し遠くで子供たちの笑い声が聞こえた。
部屋の電気はつかないけれど、自由に動き回る事は出来た。
時刻は午後7時30分、そこまで遅い時間じゃないが、外はもう日が暮れかけている。
あの岩場にミツルを探しに行った日の様な夕焼け。
しばらくすると、僕が帰ってきた。次は部屋に電気をつけた。
何をするのか、とベッドに腰掛けたまま僕を見る。
「…る…あぁ……が…」
ブツブツと独り言を言う僕の背格好は今とほとんど変わらない。
少し髪があの日の夢より伸びて、後ろを1つでくくっていた。
肌は相変わらず色白く、外に出ていない様子。
机に向かってペンと紙を一枚、何かを書き始めた。
気になって近付く、確か僕はあまり文や文字を書くのは得意じゃなかったのに。
“ミツルへ”
ドキ、と心臓が鳴る。
なんだ、ミツルへ、って。僕は彼女に何をしているんだ?と、様子をうかがう。
別に、僕には僕の姿は見えていない筈なのに息を止めてしまう。
苦しくなって、ゲホゲホと咽る。
それが聞こえたかのように、僕は急に椅子から立ち上がった。
身体はすり抜けるのに、反射的に避けてしまう。
…また、部屋から出て行ってしまった。
紙にはまだ“ミツルへ”の四文字しか書かれていなかった。
一体、この日を迎えるまでに何が僕たちの身に起こるのか。
この時の僕はまだ、考えることもなかったのだ。




