エスケープ・エレジー
「そうね!そうしましょう!」
ミツルの返事は意外なモノだった。
てっきり断られてしまうと思ったのに。「何言ってるの」と言われると思っていた。
今夜、あの家に帰らなくていいと思うだけで身体がふっと軽くなって、急に眼がしらが熱くなる。
けど、僕の勝手な行動にミツルを巻き込んでしまったのは確かだ。
「…ごめんね」
気付いたら手を握ってしまっていた。
ちら、とミツルを見るとボロボロと大きな涙をこぼしていた。
僕は声を掛けず、横目でずっと彼女を見ていた。
「大丈夫、だよ。辛い時はお互い此処に逃げよう。一緒に何処までも」
「ずっと、一緒に居よう」
教会でこういうこというって、今日の僕はどうかしてる。
「うん…、大人になっても、死んでしまう時も」
きっと明日になったら僕もミツルもこの約束を忘れてしまうだろう。
辛いこの一時だけ、僕の心の逃げ場。
「もうこんなに暗い、今日は海も満ちて渡るのは難しそうね」
ミツルが海を指差す。遠くに僕とミチルの家が見えて、こうして家の方を見ると、ちっぽけなものなんだな、と思う。
「お父さんたち、探してるかな」
「そんなことないわ、今日は遠くへ行ってくるとメモを残しておいたもの」
「…そう、よかった」
きっと、きっと僕の父さんと母さんは今頃怒り狂っているだろう。
ミツルの両親も心配していることだろう、帰ったらなんて言われるだろうか。
「寝ましょう、今日は沢山遊んだから疲れたわ」
教会の階段のところで僕とミツルはひんやりとした夜の空気に少しだけ寒さを感じながら、ボロボロのカーテンを破って毛布代わりに被った。
僕はすぐに熟睡してしまったらしい、最近父さんのお酒を飲む頻度が高く、ロクに眠れなかったのだ。




