ドリーム・エレジー
目の前に、僕が居る。
今よりも髪が少しだけ伸びて…と言っても、僕にしか分からないくらいの長さ。
片手に大きめの鞄、それと傘…、錆びついた傘を持っていた。
バス停でバスを待っているのだろうか、時刻表を数分おきに確認しては、僕を見て、気まずそうだ。
しばらくして、今にも壊れそうな古びたバスが一台バス停で停まった。
ギィィィ、と錆びついたブレーキの音がする。思わず耳を塞ぐ。
目の前の僕は、ドアが開いて、少し躊躇った様子で乗りこんだ。
追いかけるように僕も開いたドアの前に立つ
「…僕は…じきに、…」
「まっ…何…」
聞きかえそうと、一歩踏み出そうとする。
プシュー…、とドアが閉じてしまう。
走らなきゃ、追いかけなきゃ、と頭では分かっているのに足は動かない。
これが夢だと分かっているはずなのに、どうも生々しい。
夕陽が落ちるちょっと前のひと時、バスに乗り込む僕。
それをすぐ近くで見る、僕。
バスが行ってしまった。
もう豆粒ほどの大きさ、あれに僕は乗って何処かへ行ってしまった。
ザァ―…と海の方から風が吹いてくる。
「――――ッは!!!!」
目が、覚めた。
潮風の香り、夢の中での気温も、あまりにも生々しく、感覚として僕の身体に残る。
僕は、どうやら予知夢というモノが見えるらしい。
自分で意図的に見れるものじゃない。覚えている日もあれば、全く覚えていない日もある。
ようはバラバラなのだ。
「―――うるせぇなぁ」
しまった。隣で寝ていた父を起こしてしまったらしい。
父、と言っても本当の父じゃない、2か3番目の父。
僕の本当のお父さんは僕が生まれる前に出ていってしまったそう、そう母に聞いている。
今の父さんはとても暴力に頼る人だ。
そして、酒におぼれている。昔はそうではなかったはずだったのに。
10年前、僕がとある病気に掛ってしまった。
母はまだ悪い宗教に溺れ、父も酒と暴力に溺れた。
…家庭崩壊だ。
「ごめんなさ―――ッ」
近くにあるテレビのリモコンで殴られる。
抵抗するすべもなく、僕は何度も、何度も、殴られる。
ああ、痛い、痛い
僕はそれから父さんの気が済むまで、約二時間程だろうか…、殴られ続けていた。
父さんは気が済んだのか、再び布団に入ってイビキをかきはじめた。




