ネクサス・ノクターン
この世界は、“ツクリモノ”だって。
確かずっと前に死んじゃったお母さんが言ってたっけ?
そんな事どうでもいっか。
ザァァ…、と海の波の音が響く。
これもツクリモノなのかな。…本物の海とそう変わらないのかな?
ずっと前に、教会にあった分厚い本で読んだ気がする。
ザァァ…、ザァァ…、もうすぐ日が暮れる。
オレンジ色になった太陽が半分海に沈んでいる。
昼間は蒼かった海も、オレンジ色に染められている。綺麗だ。
海辺の大きな岩場の一つに座ってもう何時間経ったんだろうか。
私の長い髪も潮風に揺られている。
「ミツル」
ぼーっと海の方を見つめていると、幼馴染であるサホに声を掛けられる。
振り返ると、サホが足元に気をつけながら私の横に座る。
「今日は一日中探したのに居なくて焦ったよ」
「ごめん。ちょっと綺麗な魚がいて」
ふぅ、と一息ついているサホの額には薄らと汗が滲んでいた。
靴も、少し泥が乾いてこびり付いているし、相当探したんだろう。
綺麗な夕焼けを見て、沈黙の時が数分。
「ねぇ」
先に沈黙を破ったのはサホの方だった。
「俺、ミツルが居なくなる夢を見たんだ」
ちらり、と横目でサホを見る。
男の子だけど、髪は長め。センターわけで、黒髪、ちょっと茶色も混ざってる。
目の色はこげ茶…今は夕焼けの色が映っている。
「だから今朝、ビックリして家を飛び出て来たんだ」
サラサラの黒髪が風に揺れる。
一本一本が生きているかの如く、艶やかだ。
横顔ですら、整った顔だという事がよくわかる。
「さっきココで見つけた時、正直そのまま海に呑まれちゃうんじゃないかって」
サホ曰く、岩場に座っている私を見てしばらく本物かどうかわからなかったらしい。
今にも消えてしまいそうな、海が自分に魅せた幻影ではないか…と。
「そんなわけ、ないじゃない。…ほら、帰ろう、日が暮れたら怒られるでしょ?」
立ちあがり、手を差し出す。うん、と頷いてサホも立ちあがる。
2人で安定しない岩場をはしゃぎながら歩いていく。
「ねぇ、サホ、私、大人になりたくないの」
「急にどうしたの、ミツル」
家に帰る途中の大きな階段を登りながら、そんな会話を始める。
なんでこんなことを言っちゃったんだろう、と後悔しながら話を続ける。
「今が、幸せなの」
数段下のサホの方に振り返って笑いながら言うと、驚いた顔をしていた。
何か言いたげだったけれど、何も言わなかった。
ただ一言、俺もだよ、としか言わなかった。
その後は無言だった。私が玄関のドアに手を掛けると『明日は一緒に遊ぼうね』と言ってくれた。
うん、といって家の中に入った。