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RQ〜運命のダイス〜  作者: 織田璃空
望まれぬ者、招かれざる者

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望まれぬ者、招かれざる者 その2

 光の門を抜けると、その先には町……というよりは村と表現するのが近しい集落があった。


「あ、姫様!」


 近くにいた畑作業中と思しきエルフの女性がエルフリーデを見て声をかける。


「今帰った」

「お疲れ様でした。――宝玉は……」

「結論から言うと失われてしまった。これから長に話をしてくる」


 エルフリーデの言葉に女性は一瞬残念そうな表情を見せたが「そうでしたか……それでも、お疲れ様でした」と、微笑んだ。


「――では、我々はこれで。そなたも頑張ってくれ」

「ありがとうございます」


 女性と別れ、里の中を進む。すれ違うエルフ達が次々と「姫様!」と声をかけてくる。


「慕われているんだな」

「……そうだと良いのだが」


 謙遜なのか、ケンの言葉にエルフリーデは苦笑する。


「嫌いな奴に積極的に声をかけるなんて、いないだろ」

「親しくしておけば理があるとすれば、その限りではないだろうがな」

「……里の者を信用できない?」

「私自身を、信用出来ないのさ」


 自信が無いのだろうな、と零すエルフリーデ。それに対して「わかる」とは言えないケンであった。



 しばらく進むと、里の奥になるのだろうか――一角に、それなりに立派なお屋敷が姿を表した。


 見張り役と思しき二人のエルフにエルフリーデが声をかけ、「長に報告したいことがある。お目通りを願いたい」と申し出ると、しばし待たされた。


「どうぞ。長様がお待ちしております」


 案内役の女性エルフに導かれ、屋敷の中に入る一行。通された部屋には、人間で言えば四十代くらいの風貌の男性エルフが待ち構えていた。


「久しいな、エル。無事の帰還、嬉しく思うぞ」

「只今戻りました、お祖父様」


 笑顔で迎え入れ、エルフリーデを抱きしめる里長。

 しばらく再会を喜んでいたが、「お祖父様、ご報告がございます」とエルフリーデが切り出した。


 里長に勧められ、ちょっと高そうなソファに座る一行。エルフリーデは里長の隣ではなく、ケン達と並んび、テーブルを挟んで里長と向かい合った。

 リナーシュは座らず、エルフリード達の後ろで待機している。


「こちらが私の祖父で、里長であるシュタイン氏族現氏族長、アルフレドだ。――お祖父様、こちらは宝玉探索においてお世話になった冒険者、ケン殿、シェリル殿、リック殿です」

「シュタイン氏族領里長、現シュタイン氏族長のアルフレドだ」

「お会い出来て光栄です、アルフレド様。私はシェリルと申します」

「ケンです」

「リックと申します」


 名乗った三人にアルフレドは「うむ」と頷く。


「報告に立ち会わせたということは、お三方も無関係ではない、ということか」

「そのとおりでございます」


 アルフレドに促され、エルフリーデはマツーリ村で起こった出来事を語る。しばらく無言で話を聞いていたアルフレドだが、エルフリーデの話が終わると天井を仰ぎ、軽くため息をついた。


「――まず、我々の問題に巻き込んで申し訳なかった。特にケン殿、そなたにはいらぬ苦労をかけさせてしまった。シュタイン氏族長として謝罪する」


 頭を下げるアルフレドに狼狽するケン。


「いや、頭を上げてください。その……冒険者をしていれば、大なり小なり、命に関わるアレコレはあると思います。今回はまあ……運が悪い中にも、運が良かった、ということで」


 苦笑しながら頭をかくケン。それを見てアルフレドは「本当に申し訳ない」と、重ねて謝罪した。


「それで、ケンの身体に消えた宝玉……あれはもう、取り出せないのでしょうか?」


 シェリルの問いに、アルフレドは頷く。


「宝玉は宝玉としての役割の一つ、『力の譲渡』を行ってしまった。それは宝玉に込められていた力が完全にケン殿に譲渡されたということだ。――そうなれば、それをもう一度宝玉に戻す術は、今の我々には無い」

「そう……ですか」


 ケンはそう言われて己の掌を見る。そこには何も無いが、そこに己の中に生まれた――いや、放り込まれた力を幻視していた。


「そういえば、宝玉の力を得てから、その――今まで知らなかったことをまるで知っていたかのように知識が浮かんでくるのですが」


 ケンの問いに、アルフレドは「付随する知識も譲渡されたからだろう」と答える。


「知識無き力は、荒れ狂う炎だ。しかし、正しき知識があれば、それを生活に役立てることが出来る。宝玉も、そういう考え方で作られたものだ。よってその多くには、力と共に知識が封じられている」

「……なるほど」


 ケンは宝玉の力に感心する。凄いことだし、便利なものだな、と。


「凄いですね。……しかし、秘宝と言われるくらいなのだから、作るのはやはり難しいのでしょうか?」


 リックの疑問にアルフレドは頷く。


「今では宝玉を作り出せる者は、この里には三人しか残されていない。他の里も、似たようなものだろうな……」

「宝玉は、エルフにとって古代の遺産に近いものなのだ。そう安々と生み出せない。それ故に、秘宝として過去の宝玉が大切に保管されてきたのだ」

「……まあ、それも奪われてしまったが」


 エルフリーデの言葉にアルフレドは自嘲気味に笑う。


 話の流れでケンはリナーシュの言っていたことを思い出す。


「そういえば、また里に侵入者が出たとか……」

「そうです、お祖父様。その話は本当なのですか?」

「――リナーシュに聞いたか。ああ、本当だ」


 アルフレドの言葉にエルフリーデの表情が曇る。


「一体、何者が……」

「わからん。目的も、所属も。侵入に気が付き、追い払うことは出来たのだが……次を防ぐ策が、無い」


 ため息を漏らすアルフレド。よく見れば、その顔には疲労が伺えた。


「貴方にこれを言うのは憚られるのですが……内部に手引した者がいるのでは?」


 リックの言葉にシェリルが「ちょっと」と釘を刺すが、アルフレドは「構わない」と苦笑した。


「残念なことだが、その可能性が最も高くてな。――今、信頼できる者に炙り出しを任せている」

「……見つかると思いますか?」


 リックの問いに「どうだろうな……」と考えるアルフレド。


「宝玉を奪われた時、我々は全く気が付かなかった。今回も、侵入者に気が付きはしたが、その侵入には気が付いていないのだ」

「警戒していなかった、というのは?」


 シェリルの言葉に「宝玉の件以来、警戒はしていたのだ――十分ではなかったがな」とアルフレドは苦笑する。


「結界に詳しく、その操作も得意な者となると――それ程多くはないと思いますが……」

「たしかに、な。だが、問題は尻尾をつかめるかどうか、だ。疑わしい、だけではな」


 エルフリーデの言葉にアルフレドは頭を振る。


「実際、今はそういった条件に当てはまる者を監視している。――さらに警戒された現状で、またやるとは思い難いが」

「だからこそ、ということもあるでしょう」


 シェリルは、やらないと思われている状況こそが、犯人にとって最もやりやすい状況ではないかと話す。


「もしも内部による犯行であれば、どこに警戒が集中しているかは把握しやすいでしょう。だったら、裏もかきやすくなるのでは?」


 シェリルの言葉にエルフリーデが「そういうことも考えられるか……」と考え込む。


 しばらく沈黙が続いたが、アルフレドの「悩ましい問題だが、お客人の頭を悩ませるものではあるまい」という言葉で打ち切られた。


「シェリル殿だったか、そなたの助言は大いに参考にさせていただこう。宝玉の件については、あらためて話をしたいと思うが……この後の予定は?」

「特にございません」

「では、大使などが来た時に開放している住居を使っていただいて、しばし休まれよ。明日、あらためて場を設けさせていただきたい」

「アルフレド様がそれでよろしければ、こちらに依存はございません」

「では、そのように。――リナーシュ」


 突然話を振られ、「は、はい?!」と慌てるリナーシュ。


「話は聞いていたな? 皆様をご案内してくれ」

「は、はい!」

「お祖父様、私も同行したいと思います。さらなるお話は、後ほど」


 エルフリーデの言葉に「ふむ……?」と訝しげなアルフレドだったが、「わかった」と一言だけ告げた。


「では、失礼致します」

「よく休まれよ」


 シェリルに任せる形になったが、ケンとリックも頭を下げ、リナーシュに導かれて部屋を退室する。



「エルフの方は、本当にお若く見えますね」

「祖父はまだ若い方だ。九百歳だからな」


 シェリルの言葉に反したエルフリーデの言葉に言葉を失う一行。長命種であるエルフと短命種である人間との差を、あらためて感じていた。


「長老衆には千歳超えの方もいらっしゃる。まあ、エルフとしても長生きな方だが」

「健康に気を使わないとな、ケン」

「そこで何で俺に話を振った?」


 ポンポンとケンの肩を叩きながら言うリック。シェリルはそれを苦笑して眺めていた。



==========



 リナーシュに案内されたのは、ちょっとした集合住宅のようにみえる建物だった。

 管理人という女性に挨拶を済ませると、一行は中に通された。


「では、皆様はこちらをお使いくださいませ。中にあるものはご自由にお使いください。あ、壊さないでくださいね? それなりに高価なものもあるということなので」


 説明するリナーシュに「余計なことは言わないで良い」と、軽く拳骨を落とすエルフリーデ。


「まあ、普通に使ってくれ、ということだ。何か必用なものがあれば言ってくれ。この建物の管理人に言えば対応してもらえる筈だ」


 男性と女性で分ければ良いだろう、ということで二部屋を借りる。シェリル一人、ケンとリックの二人という部屋割りだ。


「私やお祖父様に話がある時も、管理人に言ってもらえれば通じる。何かあれば遠慮なく言って欲しい」

「ありがとう、エル。助かるわ」

「部屋も綺麗で快適そうだ。これで同室なのが男じゃなければ……」

「野宿するか?」

「ひでえな」


 男二人の馬鹿なやり取りに女性陣が苦笑する。


「ご希望であれば、添い寝は無理だが里の者に声をかけるが? そこから先はリック殿しだいだが」

「いや、冗談です」


 真顔でエルフリーデに言われ、慌てるリック。それを見て苦笑するエルフリーデ。――冗談だったようだ。


「無理やりでなければ、その辺りは自由にしてくれ。ただし、誠意ある態度、行動で頼みたい」

「勘弁してよ……」


 ちょっと泣きそうなリック。それを見て、一行は笑った。


「あとで一緒に食事をしよう。昼食――には遅いな、早めの夕食になってしまうが」

「楽しみにしているわ」

「たしかに、ちょっと腹減ったな」

「エルフの里の料理か……楽しみだな」


 シェリル、ケン、リックの三人も言われて空腹感を覚える。出発前に朝食は摂ったが、昼食はたしかにまだだった。


「では、後ほど呼びに来る。荷物を置いて休んでいてくれ」

「それでは私も失礼します~」


 礼を言い、二人を見送る三人。

 食事への期待を懐きながら、それぞれ荷物を部屋に置き、ベッドに倒れ込む。


「あ~、疲れた……」


 里長との面会等という緊張する場面もあったからか、疲労感に瞼が重くなるケン。


「お~い、寝るなよ~」


 遠くからリックの声が聴こえるような気がするが、ケンは襲いかかる睡魔に抗えず、瞼を閉じた。


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