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RQ〜運命のダイス〜  作者: 織田寿一
エルフと宝玉
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宝玉とエルフ その6

 男を捕縛し、とりあえず一同は座り込んだ。ケン以外も魔術の行使により疲労を感じていたし、ケンは慣れない力のせいで余計に疲労を感じていて、実は立っているのがやっとだった。



 しばらくすると、ミーヤと村人達十数人がやって来た。

 騒ぎを察知したものの、ミーヤの「今は危険だ」という言葉に、村人達は騒動が落ち着くまで待っていたという。

 周囲を確認する村人達。――畑の大惨事を目にして、何人か倒れていた。……無理もない。


 とりあえず、畑の……というか、農地全体の大惨事についてはエルフリーデが補償する、ということで話は進められた。不幸中の幸いというか、エルフリーデの持っていた宝石類は補償に充分過ぎるほどの価値を持っていたらしい。

 エルフの資産力の高さに、リックは「婿入り出来ないかな?」とあんまりな発言をしていたが――皆、聞かなかったことにした。エルフリーデは苦笑していたが。


 村の自警団に男を預け、その他諸々話をし、とりあえず細かいことはまた明日話し合おうと解散する。

 村人達を見送り、ミーヤと「まあ、そういうことで」と苦笑し合う。一気に色々終わらせるのは、さすがにしんどかった。


 依頼とは異なる形にはなったが、これで村は害獣に苦しめられることは――通常の自然の摂理という側面を除けば――無くなるだろう。


「とりあえず、これで一件落着――では、ないよな……」


 良かった良かったと話をまとめようとしたところで、ケンは全てが終わった訳ではないことに気がついた。


「そうだよなあ……宝玉、無くなっちゃったもんな」


 難しそうな表情でそう零すリック。


「人命には変えられん。――これで、良かったのだ」


 そういうエルフリーデであるが、やはりその表情は冴えない。

 氏族の宝とも言うべき宝玉を経緯はどうあれ、失ったのだ。ここまで探してきた労力、その中で倒れていった同士達のことを思えば、致し方ないだろうとケンは思う。


「私達がエルフの里に行って、事情を説明するしかないかしら……」


 シェリルの案に、エルフリーデは「そうするのが最善ではあるが……良いのだろうか?」と不安げな顔を見せる。


「……まあ、俺が助かったのは宝玉のおかげだし、それってエルフリーデさんの――言うなればエルフの人達のおかげじゃん? だったら、謝罪とお礼を兼ねて、顔を見せに行く方が良いんじゃないか?」


 ケンのその言葉に、エルフリーデはビックリしたような表情をみせ、やがて涙ぐんだ。


「え、ちょ、え??」


 突然の出来事に、動揺を隠せないケン。そして、それはシェリルやリックも似たようなものだった。


「す、すまない……」


 涙を拭い、謝罪するエルフリーデ。


「元々、我々の不手際から奪われた宝玉……それを取り戻すために巻き込み、死なせそうになったというのに――ケン殿は、心が広いのだな」

「いや、村を守るって依頼を受けていた中で、たまたまそうなっただけだしなあ……むしろ、助けてもらって感謝?」


 エルフリーデのみせたはにかむような笑顔にドギマギしながら、ケンはアワアワと答える。


「それにさ、命が助かったばかりではなく、何か力が付いてきた訳だし? これはもう、儲けものと言っても良いのではないかと。――うん、俺はすげーラッキーだ。うん」


 そう言って「うんうん」と納得してみせるケンに、エルフリーデは「ふふっ」と微笑んだ。


「優しいな、ケン殿」

「ふ、普通だし?」


 少し距離の近くなったエルフリーデに、ケンはよりアワアワと慌てる。


「おいおいケン、慌てすぎだろ」


 リックが苦笑している。

 シェリルも「ケンが女性にああいう形で圧されるのって、めずらしいわね」と、故郷に帰ったら言いふらしてやろうと何やら手持ちのメモ帳に書き込んでいる。ケンに「おい、やめろ」と言われるが、知らん顔だ。


「しかし、その優しさに甘えるだけでは氏族の恥さらしだ。お礼――いや、償いがしたい」


 真剣な表情のエルフリーデ。しかし、ケンは困っていた。


「償いって言われても……むしろ、こっちが宝玉を使わせてしまったし……」


 悩むケン。


「――そ、そうだ! ここは、あれだ、お互い様ってことで。とりあえず里で事情を話して、『今回は色々大変だったな』ってことで!」


 解決になっていないのを自覚しつつ、ケンはそう提案する。――里に行こう、というシェリルの提案から何も変わっていない。


「しかし……」


 納得できない、という顔のエルフリーデ。


 しばらくにらみ合いではないが、お互いの顔を見合ったまま時間が過ぎていく。


 やがて、「いや……しかし……うん」と、何やら悩んでいたエルフリーデが納得したように頷いた。


「ケン殿、私を嫁に貰ってくれないか?」


 突然の提案(?)に、吹き出すケン。


「何を言ってるんです?!」


 あまりにも突拍子もないその提案に、ケンは頭の中が真っ白になるような感覚に陥る。


「いやいやいや、エルフリーデさんちょっと待ちなよ」

「そうよエルフリーデさん、早まらないで! コイツの嫁なんて、将来的にどうかと思うわ!」


 地味にシェリルの言葉に傷つくケン。


「そうだよエルフリーデさん。コイツ、そりゃあ優しいかもしれない。……でも、馬鹿なんですよ? 良い奴だけど、馬鹿なんです」

「おいリック」


 ストレートに馬鹿にされ、ケンはムッとする。


「魔術は使えない――ああ、でも宝玉のおかげで使えるようになったのか? でも、基本的に直情的な、熱血馬鹿剣士なんですよ、コイツ。俺達がいなけりゃ、すぐに野垂れ死んでもおかしくないレベルの」

「そうね、リックの言う通り」

「待てお前ら」


 ケンの「そんなことはないだろ」という苦情は無視される。――なんていうか、基本的にこんな扱いなのだ、三人の中におけるケンという男は。


「夫婦は支え合うものだ。私も、ケン殿を支えれば良い」


 そう言って微笑むエルフリーデ。その表情はとても優しく、美しかった。

 ケンは、言葉を失った。


「でもエルフリーデさん。そういう、罪悪感から夫婦になっても……上手くいかないと思うけどな。いつか、ギクシャクしちまうんじゃないか?」

「そうね……私もそう思うわ」


 リックの言葉に、シェリルも同意する。

 二人の言葉にエルフリーデは頷いた後、「たしかにそうかもしれない」と呟く。そして、「しかし」と続けた。


「私が嫁にしてくれと言ったのは、罪悪感からだけではない。――もちろん、そういう気持ちが少しもないとは言えない。ただ……そうだな……」


 そこまで言って、エルフリーデは言い淀む。

 そして、少し頬を赤らめて次の言葉を紡いだ。


「その……一目惚れ、というほどではないのだが……宝玉のために一生懸命になってくれたケン殿の姿に……その……惚れてしまったのだ……」


 美しく、凛々しさを感じさせたエルフリーデが一転、もじもじと可愛らしい仕草で照れていた。


「マジか……」

「こんなこともあるのね……」


 驚いているリックとシェリル。


「いや、ちょ……え?」


 思考が追いついていないケン。


「すぐに決めて欲しいなんて、そんな恥知らずなことは言わない。ただ、そういう選択肢もあるのだと考えて欲しい。――私は長命種のエルフ、待つのは苦ではない。ケン殿がこの先老いようとも、いつまでも待てるぞ!」


 そう言って胸を張るエルフリーデ。彼女の今の年齢は定かではないが、長命種たるエルフは四百年程度を軽く生きる。――百年程度の人間とは寿命の差があり過ぎるのだ。


「いやでもさ、言い難いことだけどさ……エルフリーデさん、ケンは人間だ。普通の。コイツは、エルフリーデさんよりはるかに短い時間しか生きられない。残されるのは、エルフリーデさんだ。――それでも?」


 リックの問い。――それは、しばしば長命種と短命種の恋において問題となる。当人達がどんなに想い合おうと、残されるのは長命種と決まっているのだ。それは仕方のないことだと割り切る者もいなくはないが、やはり残された者は長い時を、寂しさを抱えて過ごすことになる。


「愛があれば……なんて、言葉で言うのは簡単だが。私は、失われるその瞬間とその後に思い悩むより、今この瞬間、こうして出会えた相手を逃すことの方が大きな損失だと考えている。……二人は、私では認められないか?」


 エルフリーデの不安げな瞳。

 先に折れたのは、シェリルだった。


「当事者の問題よね、これって。たしかに、色々心配することはあるけど、結局は二人の問題だもの。あとは、ケンの気持ち次第じゃない?」


 そのシェリルの言葉に、「でもなあ……」と悩むリック。しかし、暫しの後、リックも「そうだな、ケンの気持ち次第。俺達外野がワーワー言っていても仕方ないよな」と折れた。


「どうだろうか、ケン殿……」


 真剣にみつめられ、たじろぐケン。


「私では、不足だろうか……」


 少し距離を詰められ、「うっ……」と少し後ずさるケン。


「これでも料理は得意なのだ。それに……そういうことをしたことはないのだが、たぶんケン殿を夜も満足させることは出来ると思う。私の姉が昔、そのようなことを言っていた。『エルフリーデは男を満足させられる、女らしい身体だ』と」

「ちょっとそのお姉さん説教したいな?!」


 ツッコミを入れたものの、状況は変わらない。


 エルフリーデは、ケンの言葉を――返事を待っている。すぐに決めなくても良い、なんて言ってはいるが、その瞳は答えを求めている。


 暫し考えた後、ケンはため息をつく。


「今すぐどうこう、ってのは流石に考えられない。でも――」


 そう。結婚なんて、全然想像もつかない。

 それでも――。


「――とりあえず、恋人から始めませんか?」


 ケンの言葉にキョトンとするエルフリーデ。凛々しさを感じる程整った彼女のそのキョトンとした顔に、ケンは思わず微笑んだ。


「おやおや。では、私の家でお祝いをしましょうか。害獣問題解決と、新しい可能性の誕生を祝って――」


 年の功か、落ち着いて笑いながらそんなことを言うミーヤ。



 星々が輝きを放ち始めている。一日が、終わろうとしていた。

 たった一日で、色々あった……そんなことを思いつつ、ケンは一行の最後尾を、エルフリーデと並んで歩き始めた。


 色々なことがケンを――ケン達を待っている予感がある。それでも、まだ彼らは歩き始めたばかり。不安も期待も抱きつつ、まずは今日という一日を生き延びられたことに感謝した。



――Episode 01『エルフと宝玉』、完

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