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RQ〜運命のダイス〜  作者: 織田寿一
エルフと宝玉
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宝玉とエルフ その5

「光の呪縛よ」


 ケンが紡いだその言葉は魔術式による『奇跡』を呼び起こし、男を無数の光による呪縛が襲う。


「?! 貴様、魔術を……!」


 驚く男。しかし、それはシェリルやリックも同様だった。――ケンは、魔術を使ったことはない。いや、使えなかった筈なのだ。


「おいおい、どうなってんだよ……」

「ケンが魔術を使えるなんて……聞いてない!」


 困惑する二人に、エルフリーデが「おそらく宝玉の影響だろう」と教える。


「『あの宝玉』には『力』と共に『知識』も込められていたのだろう。私も知らなかったことだが……宝玉には、そういう効果をもたらすものもある」

「じゃあ……それでケンは魔術剣士に?」


 シェリルの問いに、エルフリーデは「そういうことになる」と頷いた。


「馬鹿な……我が障壁を物ともせずに魔術をぶつけるだと……? 貴様、その力……それが『宝玉の力』ということかっ!」


 悔しげな男の表情。

 ケンは「違和感ありまくりだけどな」と前置きした上で、「お前に渡っていたらと思うと、ゾッとするね」と苦笑した。


「余裕のつもりか……だが、この程度の呪縛術式など!」


 魔力の高まり。男は強引にケンの呪縛魔術を破壊し、拘束を解いた。


「やはり『宝玉の力』は凄まじい……だが、それを使う奴が未熟ではな」

「煩えよ。まだこっちは『始めた』ばかりなんだ」

「惜しい……実に惜しい。貴様のようなガキに、『宝玉の力』を与えてしまうとは」

「お前にやるよりかは、マシだろ」

「生意気なガキだよ、まったく」


 互いに距離を図りながら、次の『一手』に備える。

 ケンは『力』を得たとはいえ、経験や知識の差を考慮すれば、油断ならないと感じていた。――慢心したその瞬間、それがケンの敗北の瞬間になるだろう。


「それだけの力があれば、まともにやってりゃそこそこの身分で生活できたんじゃないか?」

「わかってないな……やはり、ガキか。そこそこの力なんぞ、この世界では何の役にも立たない。上にいる奴には抑えられるし、圧倒的な金の力には抗えない。力と金……その両方を誰よりも持っていなければ……永遠に搾取される側に居続ける。――そんなクソみたいな人生、俺は我慢ならん」

「それで『宝玉の力』を狙うって? そんなの、馬競争の賭け札が当たりますように、って願っているようなもんじゃないか」


 思いっきり、馬鹿にするように笑うケン。


「自分自身の力でやってやろう、ってやらない奴に、本当の成功なんて訪れる訳無いだろ。馬競争王なんて呼ばれている人間の大半は、やることやっているから『そこ』にいるらしいからな」

「俺をギャンブラーと一緒にするな」


 怒りを露わにする男。


「同じだろ? 『宝玉の力』があれば、おれは成功できるんだ! ――それは『宝玉の力』であって、お前自身の力じゃない。そもそも、『宝玉』はエルフの物だろうが」

「――どうやら、死にたいようだな、ガキ」


 男から力の高まりを感じる。――何かが、来る。


「――暗闇の牢獄」


 次の瞬間、ケンの視界は暗闇に閉ざされ、周囲の気配すら感じられなくなってしまう。



 魔術による結界の一種だと判断したケンは術式を破れそうな魔術を『検索』し、使おうとするが失敗してしまう。

 己の中にある『力』がまだ、身体に馴染んでいない――そんな直感が、ケンにはあった。


 しかし、状況はのんびりとしてはいられない。文字通り『見えない位置』から『何らかの』攻撃が繰り出され、ケンを傷付けていく。

 魔術による攻撃だということだけは分かったが、どんな魔術かは分からない。そして、それを防ぐ手立ても今のケンには分からない。――ただ、思っていたよりはダメージは少なかった。


 意識すれば、己が魔力による障壁――男が使っていたものと同種だろう――を展開していることに気が付く。完璧なものとは言えないようだが、どうやらこれを無意識の内に展開していたおかげで、ダメージを減らせていたのだと知る。


 しかし、ダメージが無い訳ではない。このままでは、じりじりと削られ、最後には致命傷を負うだろう。


 脱出するには、術式を破壊できる『爆発力』か、空間自体を『無効化』するしかない――ケンの中の『知識』が、そう告げる。

 手っ取り早いのは、『爆発力』に思える。――が、それで自分自身もダメージを受けるのではないか? と考えると、その選択肢は取り難い。脱出できれば良いのではなく、脱出してあの男を倒す必要があった。


 となれば、残されたのは空間の『無効化』であるが――『知識』は、それを容易ではないと教える。


「――でもまあ、やるしかないよな」


 頭に浮かぶ術式を魔力で編み、力を注いでいく。知らない筈の術式を展開していく自分自身に違和感はあるが、ケンはそれを次々とこなしていく。それは容易なことではないという『感覚』はあるが、やるしかない。


 術式の意味を知らないケンだが、『知識』はそれを知っているものとしてケンの頭の中に展開する。そう、知らないのに、知っている。そんな気持ち悪い感覚の中でケンは魔術を準備する。


 脳裏にその魔術の名が浮かぶ。――『拒絶』。それが、その魔術の名前だった。


「――我が意に沿い、総てを拒絶しろ」


 術式、発動――魔術効果作用、対象術式の無効化を開始。


「――これ、どうやって制御すんだよ!」


 ケンは、暴れ狂う『力』に翻弄されていた。

 魔術はたしかにその空間を蝕み、『無効化』しようとしているのは分かる。だが、気を抜けば自らも消滅させてしまいそうな、そんな勢いにケンは四苦八苦していた。


「言うこと聞けよ、この……!」


 己の魔術に文句を言うのもどうなのか、という疑問もあったが、口に出してしまわないと本当に魔術に負けてしまいそうな気がして、ケンは独り言を漏らしつつ、コントロールしようと格闘していた。


「あいつはぶん殴ってやらないと、気が済まねえ……だから、ちゃんとここから出ないといけないんだよ!」


 暴れ狂う魔術。術式が勝手に書き換わりそうになるのを『知らない筈の知識』でどうにか防ぎ、術式を維持する。どの程度の時間そうしていたのか分からないが、ケンは必死になってそれを続けていた。


 そして、焦りが限界に達しようかというその瞬間、空間は光に包まれた。



「ケン!」

「大丈夫かよ、おい!」

「ケン殿!」


 気が付けば、ケンは三人に身体を支えられていた。


「――馬鹿な、あの空間から自力で脱出しただと? それも、術式を破って……?!」


 驚愕している男に、ケンは疲労を堪えつつ笑ってやる。


「アンタのチンケな魔術じゃ、俺は止められないみたいだぜ?」

「糞ガキ……!」


 酷い形相の男。下にみていたケンに馬鹿にされ、完全に冷静さは失われていた。


「灰も残らないように消し飛ばしてやる……!」

「やれるもんならやってみろ、口だけ男」


 ケンの挑発に、男が右手を構える。


「紅蓮の渦!」

「吹きとばせ、嵐!」


 男の放った炎の魔術に対し、ケンは風の魔術を放つ。ぶつかり合うふたつの魔術だったが、ケンの風魔術の勢いの方が上で、炎の魔術は男を焼いた。


「ぐぬぉっ!!!!」


 のたうち回り、炎を消そうとする男。限界を迎えた漆黒のローブは燃え尽き、近場にあった水場に飛び込むことで、男は己を焼こうとする炎を消していた。


「はぁっ……はぁっ……く、糞ガキがっ……!」

「もう魔術士でもなんでもないな……ただの、怪しい怪我人だ」


 ぷっ、という感じにケンが笑うと、地面をゲシゲシと踏んで男が悔しがる。


「こんな筈ではなかった……こんな筈では! ――金も、力も得て、俺は俺を馬鹿にしていた奴らを見下ろす筈だったんだ! それを、お前が……!」


 男の言葉に、ケンは「逆恨みだろ、そりゃ」と鼻で笑う。


「アンタの事情は知らないし、理解したいとも思わないけどさ……どんな事情にしろ、人の物を盗んで、それで自分の思い通りにしようとかさ……同情の余地、ねえだろ?」

「貴様に俺を裁く権利など、無い……!」

「ああ、無いね。――けど、それがなんだ?」


 男の言葉に、ケンは「何言ってんだ?」と呆れてみせる。


「困っている人がいる。そして、その原因はアンタだ。……だったら、アンタを倒す。――それが、冒険者ってもんだろ?」

「ガキの言うことかよ!」

「うるせえ黙れ、おっさん!」


 二人がほぼ同時に構える。先に仕掛けたのは――ケンだった。


「蹂躙せよ雷鳴!」

「いかず――ぐはっ!」


 無数の雷撃が男を文字通り、蹂躙する。目を開けているのも辛いくらいの輝きの中、男の絶叫が雷撃の音と共に聞こえてくる。


 雷撃が止むと、まさに黒焦げといった体の男がふらつきながらも立っていた。


「なかなかしぶといな。でも――」


 ケンは一気に距離を詰めると、その剣で男の利き腕と思われる右腕を切り落とした。


「ぐっ……!」


 噴き出る血。傷口を押さえて弱々しく治癒魔術を使っているが、血はなかなか止まらない。


「アンタの命が消えかけているのか、アンタの治癒魔術が下手くそなのか。――どっちだろうな?」

「……く、糞ガキが……っ!」


 呻く男。もはや、形勢は明らかであった。


「アンタを殺しても夢見が悪いんでな……眠ってもらうか」


 剣の柄で男の顎を叩くケン。なかなかうまくいかず、何度めかの衝撃で男の意識を刈り取ることが出来た。


「案外難しいんだな……」


 そうぼやきつつ、「癒しの光よ」と、治癒魔術を男にかけるケン。右腕の血は止まり、腕が再生することはなかったが、火傷の回復と共に止血をすることは出来た。


「腕をつなげるってのも出来そうだけど、やらないよ。やってやる義理もないし、な」


 そう言って男を見下ろすケン。


「悪さをすると腕をもぎ取られる――童話で習わなかったのか?」


 そう言ってドヤ顔を決めるケンだったが、男がそれを見ることはできなかった。


「ひとまず――」


 振り返るケン。

 シェリル、リック、エルフリーデがケンを見ながら喜んでいる。


「クエストクリア、だな!」


 鼻の下を掻きながらそう決めようとしたケンだったが、周囲の大惨事――畑の惨状――に気が付き、顔を引き攣らせたのは蛇足であろう。


今回から予約投稿時刻を朝7時から昼12時に変更しました。

(告知忘れていました。ごめんなさい)

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