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RQ〜運命のダイス〜  作者: 織田璃空
望まれぬ者、招かれざる者

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望まれぬ者、招かれざる者 その10

 オイズミーとの戦闘から、二日ほど経過した。


 その後はあれよあれよという間に今回の事件の関係者が捕らえられた。

 まず、オイズミーに接触していた者、そこからさらにエルフ至上主義者数名が捕らえられた。呆れたことに、その中には宝物庫の警備を担っていた者までいたという。


「もう少し、人選を考えないといかんな」


 事件の顛末を説明し、アルフレドはため息をつきながら話を終えた。


「それで、オイズミーさんはどうなるんです?」

「事情が事情なのでどうにかしてやりたいが、『秘宝』の私的利用のための強奪への関与となると、軽く済ませる訳にもいかなくてな……長老会でどうにか無期限監視付き隔離生活という処分に落ち着かせたよ」


 シェリルの問いに答えると、アルフレドは再びため息をつく。


「こんなことになるとはな……その場しのぎすらしてこなかった、長老会の怠慢が遠因だろうな……」

「お祖父様……」


 力なく笑うアルフレドを、エルフリーデが寄り添って支える。


「君達にも迷惑をかけた。改めて謝罪させて欲しい」


 頭を下げるアルフレド。ケン達は、それを無言で受け取った。


「ヨウさんは……どうするんでしょうか?」

「オイズミーに付き添い、隔離生活を送るそうだ……事情を知り、彼女なりに責任を感じたらしい」


 シェリルに答えると、エルフリーデは俯いた。


「どうして、こんなことに……」


 その問いに、答えられる者はいない。


「これで、事件は解決……ですか」


 ケンが問うと、アルフレドは「おそらくは、な……まだ調査の最中だが」と答える。


「何だかスッキリしないよな……犯人が捕まっても、実行犯だったオイズミーさんは追い詰められてやっちまったようなもんだしさ……」

「……それでも、やっちゃいけなかったんだよ」


 リックのぼやきに、ケンは天井を見上げながら言う。


「あれだけの力があるのにさ……必死になれば、隠れて生活するとか、そういうことも出来たんじゃないかな……そりゃ、生活していくのは大変だろうさ。それでも……こんな事件に関わるよりは、マシだったんじゃないかな……」

「ケン……」


 エルフリーデが、悲しげな表情でケンを見ていた。


「……きっと、そういう『強さ』よりも、『心』が弱かったんだ……だから、屈してしまった。――相談してくれていたら、何かが出来たかもしれないのに」


 後悔からか、再び俯くエルフリーデ。


「――だが、結果的にアイツはやってしまった。過去は変えられん。そして、これが現実なのだ」

「お祖父様……」


 アルフレドは、そう言ってソファから立ち上がる。


「『強い力』に打ち勝つためには、強くならねばならない。だから、『力』を欲する。……だが、本当に必要なのは、『心の力』なのだ。『心』が弱ければ、『力』に溺れる。『力』に屈する。だから、『強い力』を持つ者は、『心』を鍛え続けねばならない」


 背を向け、そう語るアルフレド。

 ケンは、その言葉がオイズミーに向けたものであるとともに、自分へ向けられているように感じていた。


「……我々は、もっと強くならねばならぬ。邪な心を持つものに付け入られぬ、『強い心』を持って」


 そう言って振り返ったアルフレドの表情は、決意に満ちていた。



==========



「これで、良かったのかな……」


 宿舎に戻り、ケンはベッドに倒れ込みながら呟いた。


「これ以上は、エルフ氏族の問題だ。俺達余所者がああだこうだ言えるもんじゃないだろ」


 リックにそう言われ、ケンは歯痒い思いを抱えたまま、黙り込む。


 ドアをノックする音にリックが応えると、シェリルとエルフリーデが入ってくる。


「これからの相談を、ね」


 シェリルがそう言うと、ケンは身体を起こしてベッドの縁に腰掛けた。


「とりあえず、当初の目的は果たしたし、残念な結果になったけれど、エルフ氏族の問題も解決した。――これから、どうする?」

「まあ、とりあえず街に戻って……少し休んで、ギルドの依頼をこなす毎日、ってところじゃないのか?」


 リックは「そんなところが妥当だろ?」と答える。


「――エルは、どうする?」


 ケンの問いに、エルフリーデはハッと舌表情を見せるが、俯く。


「わ、私は……」


 続く言葉は、紡がれない。


 彼女の選択肢は、大雑把に言えばふたつだ。


――自分達と一緒に、冒険するか。

――里に残り、立て直しに尽力するか。


 選ぶのは、彼女だ。しかし――。


「――エル、俺達と一緒に、来ないか?」


 ケンは、彼女を連れて行くことを選んだ。

 そして、彼女に選ばせたかった。


「――良いのだろうか? 私は、皆と一緒にいたい。……ケンと、一緒にいたい。だが……」


 悩んでいるエルフリーデ。

 ケンは、頭を掻くと「あ~、もう!」と気合を入れてエルフリーデを見た。


「たしかに里は大変だ。それをどうにかしなきゃ、って思う気持ちもわかる。でも、俺は、エルと一緒に冒険がしたい! これからも、ずっとだ!」


 顔から火が出るかと思うほど、恥ずかしい。そんな思いをして己の言葉を伝えると、エルフリーデは顔を真赤にしてオロオロしていた。


「わ、わたしは……はわわ……?!」

「一緒に行こう、エル。そんでもって、いつか里に『帰ろう』。ふたりで」

「け、ケン……?!」


 混乱しているエルフリーデ。

 何やらニヤニヤしているシェリルとリックを確認しつつ、覚悟を決めたケンはエルフリーデを抱きしめる。


「ふえ……?!」

「一緒に行こう。……パートナーとして」


 ケンの腕の中で暫し暴れるエルフリーデ。

 しかし、やがて落ち着き、彼女は真っ赤な顔のまま、頷いた。


「よし! 決まりだな!」

「お~、我らがパーティーに、正式に新メンバーが加入だな!」

「ケン、『結婚指輪』のためにも、頑張らないとね?」

「なんだってやってやるさ! ……無理のない範囲で、な!」


 最後の言葉がやや締まらなかったものの、ケンは笑顔でそう答えた。


 アルフレドに報告しなきゃいけないし、色々と問題は残っていると思うが……ケンは、何とかなるだろう、と楽観的だった。


(何があったって、やってやるさ)


 オイズミーに『戦うこと』を求めた者として――ケンは、『戦うこと』を胸の内で誓う。

 きっとそれが自己満足であったとしても、ケンはそうしようと――そうしなければならないと思った。


「ケン……その……よろしく頼む」

「こちらこそ、エル」


 見つめ合い、照れる二人。

 二人なら――いや、この四人なら、やっていけるさ。

 そんな確信めいたものが、ケンにはある。


「それじゃ、落ち着いたら『お孫さんを僕にください!』って言いに行かないとね!」

「他人事だと思って……!」

「「他人事だから」」


 シェリルとリックがハモりながら言う。

 舌打ちしつつも、ケンは笑った。


(何とかなるさ、きっと)


 エルフリーデを抱きしめたまま、ケンは己の未来を考えていた。

 大口を叩いた以上、やってやるさという気持ちと、本当にそんな生き方が出来るのかという、不安。


 それでも、きっと大変なことはあるだろうけれども。


「俺達なら、やっていけるさ――」


 誰に言うでもなく、ケンはそう呟いた。



――Episode 02『望まれぬ者、招かれざる者』、完

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