望まれぬ者、招かれざる者 その7
宝玉が置かれている場所にいってみたい、と言い出したのはケンだった。
「連中……って言って良いのかわからないけど、何度か襲撃しているというなら何かヒントがあるんじゃないか?」
ケンの意見にシェリルは「珍しく冴えてるわね」と驚いていた。
「宝玉は宝物庫に収められている。私でも入ることは出来ないが……長に確認しよう」
エルフリーデがアルフレドに確認する、ということで一度解散となり、ケン達は宿舎へと戻る。
「しっかし、目的は何なのかね?」
ベッドに倒れながらリックはそう漏らす。
「目的?」
窓から外を眺めながら、ケンはリックの言葉に返す。
「いやさ、宝玉はエルフ氏族の宝なんだろ? エルフ至上主義者がエルフの宝を持ち出して、エルフ氏族内に混乱をもたらす程の目的って、何なんだろうな、ってさ」
リックの疑問にケンは頭を悩ます。
「……つまり、どういうことだ?」
わからん、と首をかしげるケンに、リックはため息をつく。
「だからさ、『エルフ最高! エルフこそ総ての頂点に立つ者!』なんて思考の奴らがさ、その足を引っ張るような混乱を起こして何がしたいんだろうな、ってこと」
「……宝玉を使って、『俺つえ~!!』とかやりたかったんじゃないの?」
「お前、寝ぼけてんのか? お前の中にある宝玉、それはどうしてお前のところまで来たんだよ?」
言われてケンは「あ」と口を開いた。
「――あの魔術士が、自分で使うために盗んだ。協力者がエルフだとして、やつは『エルフ風情が』なんて言ってたんだぜ? プライドの高そうなエルフ至上主義者が、奴に協力すると思うか?」
「ちょっと待てよ、ってことはつまり……」
ケンの想像にリックは頷く。
「首謀者……って言って良いのかわからんがな、そいつはエルフ至上主義者なんかじゃないかもしれない」
リックの考えに、ケンは「は~……」とため息をつく。
「お前って、たまに頭良いよな」
「たまにとは何だ、たまにとは」
ちょっと怒るリック。
「でも、だとすると余計に訳わからなくないか? 俺は、エルフ至上主義者の仕業だろうって言われて、そうかもな、って思ったけどさ……そうじゃないって言われると、じゃあ……何なんだ?」
「俺も『正解』なんてわからんけどな……ただ、エルフが関わっているのは間違いない。そしてそいつはエルフ至上主義者なんかじゃなくて、『裏切り者』なんじゃないかね?」
「……『里』を混乱に陥れても構わない、って思っている。だから秘宝である『宝玉』を盗ませるし、邪魔者になりそうな俺達を『里』の中で襲撃する……?」
「――って、ことだろうな」
リックは「まあ、証拠もないから、想像でしかないけどさ」と苦笑する。
「ま、そのへんの話も、明日エルを交えて話そうぜ。俺達だけでああだこうだ言っていても、どうにもならんからな」
「それもそうだな」
ケンも「少し早いけど、寝るか」とベッドに行こうとするが、気配を感じて窓辺に張り付く。
「――何か、いる」
「おいおい、また襲撃かよ?」
まだ日が落ちて間もない、早い時間帯だ。人通りの多い場所ではないが、それなりに人がいる。ここで戦闘になれば、巻き込んでしまう可能性は高い。
「周囲のことはお構いなしかよ……!」
舌打ちし、外していた装備を手早く身に着けるケン。
「この状況じゃ、後手に回るどころか、先手を打ってもろくな事にならない気がするぜ……」
「同感」
リックの言葉に同意しつつ、ケンは神経を研ぎ澄ませ、周囲を窺う。
気配――殺気を放っているのは、四人か? シェリルを入れても数で負ける。
「シェリルを呼んできてくれ。俺はこのまま警戒を続ける」
「わかった」
部屋を出て行くリックを見ず、外を警戒し続けるケン。気配は動かない。
「……焦れてこっちが動くのを待ってるのか?」
少しばかり、焦る。後手に回るのは相手の戦力がわからない状態では圧倒的に不利だ。かといって、先手を取るのもリスクがあるし、何よりも周囲に被害をもたらす可能性が高く、エルフ氏族との関係的にリスクが高すぎる。
「どっちに転んでも、良いことないよなあ……」
ため息を付きたくなるも、こらえて次善の策を練る。
「ケン」
扉が開き、シェリルの声がする。リックがシェリルを連れて戻り、窓辺に集まる。
「相手は?」
「たぶん、四人。戦力はわからない」
シェリルの問いにケンが答えると、シェリルは「圧倒的にこちらが不利ね……」と漏らす。
「どうにか『里』の人達を避難させて、戦闘になっても大丈夫な状況を作り出せれば……」
「魔術で注意を逸らして……とか?」
「逆に足が止まって、そこに襲撃者が行動を起こしたら悲惨なことになりそうね……」
シェリルとリックが状況打開のために検討する。ケンは己の頭ではろくなアイデアが出せないと思ったので、黙ったまま警戒を続ける。
「いっそのこと、地面に攻撃系の魔術をこう、バーンと……」
「……乱暴だけど、それが良いかしらね」
ため息混じりにシェリルがリックの意見に同意する。
「んじゃ、やりますか。――ケン、相手の動きは?」
「――相変わらず殺気を放っているものの、動いてはいないな」
「ほいほい。――じゃあ、先手を取らせてもらいますか!」
窓を開けると、リックが魔術を放つ。
「紅蓮の炎よ!」
リックが放った魔術は人々がいなかった場所に落ち、一瞬、燃え上がる。
突然の魔術に、人々は慌ててその場から離れる。
「! 動いた!」
気配の動きを察知したケンは、窓から飛び出る。
「そこ! 風よ!」
着地と同時に風魔術を建物からこちらを窺っていた人物に放つケン。
「?!」
まともに直撃したその人物は吹っ飛び、地面に倒れる。
「貴様っ!」
横から飛び出してきた人物は剣を手にしており、ケンも己の剣を抜き、迎撃する。
ケンの背後から魔力の高まりを感じ、対応しようと位置を入れ替える。
「雷よ!」
シェリルの魔術が魔術を放とうとしていた者を撃つ。直撃したらしく、その人物は無力化されたようだった。
「爆炎よ!」
リックの魔術がもう一人、斧を手にしていた人物に放たれる。豪快に火柱を上げて燃え上がる光景を尻目に、ケンは目の前の相手を力押しで押し返し、相手の剣を叩き折る。
「くっ……!」
折れた剣を捨て、右手を構える相手。
「風刃よ!」
「光の障壁よ!」
放たれた風魔術はケンの魔術障壁によって防がれる。
続けて魔術を放とうとした相手に、シェリルが「雷よ!」と、雷魔術を放ち、無力化した。
「シェリルのアレって、結構えげつないよな……」
風魔術で落下をコントロールしながら降りてくるリックとシェリル。
「アンタの爆炎よりマシでしょ?」
「そうかあ?」
何やら言い合いをしている二人をちら見しつつ、ケンは警戒を続ける。周囲に敵対反応を示している気配は感じられず、とりあえず襲撃者達を引きずりながら一カ所に集める。
「ロープある?」
「無いわね。ちょっと貰ってくるわ」
シェリルが宿舎に向かい、リックとケンで襲撃者達を見張る。
やがて宿舎からロープを持ったシェリルが戻り、襲撃者達をリックが縛り上げる。
「芸術的な縛りだぜ」
「……そういう趣味あるの?」
「ねえよ」
リックとシェリルのやりとりに「何してんだよ……」と呆れつつ、ケンは近付いてくる集団にため息をつく。
「……また貴方達ですか」
相手もまた、ため息を吐いていた。
「……お世話になります」
少し引きつった笑みを浮かべながら、ケンはやって来た警官隊を迎える。
襲撃者達を引き渡し、ケン達はまたも馬車に乗せられ、連れて行かれる。
「……ほんと、勘弁してほしいぜ……」
ため息をつきながら馬車から外を眺めるケン。
「どっちを引いても貧乏くじ、だったわね、結局」
やれやれ、と頭を振るシェリル。
「まあ、住人に被害が出なかっただけでも良かったじゃねえか」
はははとやけくそ気味に笑うリック。
「――何というか、複雑な気分だよ」
ケン達を連れて行く警官は、本当に複雑そうな表情でため息を吐いていた。




