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魔女と魔王と魔術士と。  作者: 小田虹里
第2章:魔王の章
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困難な道

「分かったわ。セルシの言う通り、たしかにあたしは冷静じゃなかった」

「ルイナさん」

「レーゼも、疲れたでしょう? 今日は、休みましょ。セルシ、食事の準備をお願いしても良い?」

「えぇ、もちろんです」


 セルシはクレーの部屋を出て、台所に向かった。それを眼で確認してから、魔女はレーゼと視線を合わせた。レーゼが自分に出される指示を待っていることがうかがい知れる。魔女の中で、レーゼが今すべきことはひとつだけだった。


「レーゼ。アンタは食事が出来るまで部屋で寝てなさい」

「えっ……? 私ひとり、寝ているのですか?」

「アンタは、日差しの強い中長距離歩いて、帰りは転移の魔術で体力が持っていかれているわ。いざという時のために、休んでおかないと」

「……そういう言い方は、ズルいですよ」


 いざという時。

 そんなことがあったとしたら、魔女はレーゼを戦闘要員としてカウントしないだろう。そのことに、レーゼは気づいていた。それなのに、あたかもレーゼは「戦闘要員」だから休めるときに休めと、それらしい言い訳で寝かしつけようとするのだ。

 レーゼ自身、分かっていた。今のままではその辺の魔術士武官にも劣るということを。理解しているからこそ、強く口出しをすることも出来なかった。レーゼは歯がゆさで歯を噛みしめ、俯いた。長い睫毛から憂いを感じる。


「いいから、休むの。アンタ、このまま腐るつもりじゃないんでしょう? 腐るつもりなら、何も言わないわよ。でも、そうでないなら……あたしのいう事を聞きなさい」

「本当に……私は、戻れるんでしょうか」

「五分五分、といったところやな」


 会話に割って入って来たのは、天士リズラルドだった。リズーは腕組をして、壁に凭れかかりながら話しかけてきた。悠長に、そして傍観しているように見えたその態度が気に入らなかったのか、それともリズーの見解が気に入らなかったのか。魔女は「ちっ」と舌打ちをしてみせた。細く短い眉をキリッと釣り上げ、リズーを睨みつける。


「五分五分……ね?」

「な、なんや? なんか俺、悪いこと言うたか?」

「いいえ、リズラルド。何も悪いことなど言っていませんよ。姉さんの腹の虫の居所が悪いだけです」

「それはそれで……厄介やなぁ」

「そこの天士! アンタもセルシを手伝いに行きなさい!」

「お~……おっかなぁ」


 魔女がいよいよ悪態を吐きはじめたのを見て、リズーもクレーの部屋から出て行った。魔女は嘆息を吐きながら、開け放たれた窓を一旦閉めた。確かに、窓枠には血痕がついていた。ここからクレーが出て行った……或いは、連れ去らわれたのは間違いなさそうだ。


(クレー……無事でいて)


 今は、祈ることしか出来ない。

 最強の魔術士として名高い魔女であるのに、弟ひとり守れない。


 それが、魔女にとっての最大の苛立ちの要因だった。


 そういえば、天士は直ぐにクレーを探しに行かなかったのだろうか。それとも、探しても見つからなかったのか。そこも問い詰めるべき点だと、魔女は頭を右手で三回はじいて、冷静さを保とうとした。


 魔女にとって、なんでも上手くいってきた人生ではなかった。十五歳でプラチナ魔術士の両親を亡くし、後を継いで魔王討伐に向かい、魔王であったセルシを説得。そこから十年はセルシと共に生きてきた。その間、弟たちのことが心配でなかった訳ではない。一度も弟たちの家に帰らなかったのは、「魔女」というイレギュラーな存在となった自身と接触することで、ヘルリオットからより監視されるのではないかと危惧したからだ。

 弟たちが、銀と銅の称号を得たことも知っていた。その時点で、ヘルリオットからの監視は始まっていたとも言える。


 プラチナの短剣は、天界の物だった。それを、ヘルリオットが得た経緯もハッキリさせなければいけない。そして、そのプラチナの短剣が今は魔女の手元にある。ゼンティル国王がそれをどう思っているのか、それも探らなければいけない。魔女には、やるべきことが多くあると頭を抱える。額に右手を当て、溜息を漏らした。


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